あらすじ
昭和24年、ミステリ作家を目指している風早勝利は、名古屋市内の新制高校3年生になった。学制改革による、たった1年だけの男女共学の高校生活。そんな中、顧問の勧めで勝利たち推理小説研究会は、映画研究会と合同で夏休み中の一泊旅行を計画する。顧問と男女生徒5名で湯谷温泉へ、中止となった修学旅行代わりの旅だった。そこで巻き込まれた密室殺人。さらにキティ台風が襲来する8月31日の夜に、学校隣の廃墟で首切り殺人にも巻き込まれる! 二つの不可解な事件に遭遇した少年少女たちは果たして……。戦後日本の混乱期と、青春の日々をみずみずしく描き出す――。各方面から絶賛を浴びた長編、待望の文庫化。/解説=杉江松恋
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Posted by ブクログ
コロナ禍真っ只中の2020年、年末ランキング3冠を達成。当時、著者の辻真先さんは御年88歳。91歳となった現在でも作家として活動中であり、頭が下がる。というわけで、文庫化を機に、初の辻作品を手に取ることにした。
サブタイトルに「昭和24年の推理小説」とあるように、時代は戦後間もない頃。何となく避けていた理由だが、読み始めるとぐいぐいと引き込まれる。古臭さは一切感じない。むしろ瑞々しい。活字が小さい創元推理文庫だが、早く読みえた。
占領下の学制改革で、新制高校3年として1年間だけ共学で過ごすことになった主人公・風早勝利。辻さんは終戦時に13歳だったそうなので、勝利はほぼ辻さんご本人と同年代。混乱期を過ごした辻さんの経験が、随所に生きている。
勝利たち推研の面々は、最初は異性とどう接するべきか戸惑っていたが、徐々に打ち解けていく。そんな彼らが2件の殺人事件に遭遇するのだが、謎解き自体は終盤まで引っ張った割には呆気ない。自分が思うに、謎解きは本作のメインではない。
軍国教育の影響はまだ色濃く残っており、誰もが生きるのに必死な時代。勝利たちは、理不尽な出来事、ショッキングな事実に打ちのめされる。それでも、新しい時代に前を向く。そして事件の動機にも、戦後間もない時代背景があるのだった。
『たかが殺人じゃないか』という物騒なタイトルの意味を、やがて読者は知ることになる。戦中は散々に殺し合って来た。玉音放送を聴いたところで、麻痺した感覚はすぐには戻らなかっただろう。そこでこのような局面に接してしまった。
戦後世代の基準では、被害者の行為は受け入れられない。当時、地位のある相手を告発するのは困難だっただろう。それでも、他の手段はなかったのかと、勝利でなくても考えてしまう。量刑はどの程度か。どうか更生の道を残してほしい。
本作は三部作の第2作に当たる。また、解説によれば、探偵役の人物は他の辻作品にも登場するようである。次に読むとしたら何がよいだろう。
Posted by ブクログ
昔のテレビのサザエさんで、脚本として画面で名前を見たこともある辻先生の作品。皆川先生、辻先生と言えば、御年90歳代で精力的な執筆活動をする凄い先生方なのだけど、一読者としてはただただ敬服するのみ、ほんと畏れ多いです。
ジュビナイル的な雰囲気を残しながら、時代の変遷と当時の状況の描写が印象深く書き込まれているし、戦後の名古屋市街の描写も個人的に良く知っているので微妙なノスタルジィも感じられる。六・三・三制の導入で突然高校3年生になった青年たちの抱える現状の描き方も良く、子供なのか大人なのかわからない設定が巧いです。
謎解きストーリーは定番ながらも鮮やかで、幕切れの秀逸さも加わって見事な出来栄えと言える。前作を読んだ上でこの本の面白さがわかるというのは、感情移入の点で
そのとおりなのだと得心した次第です。
Posted by ブクログ
昭和24年の名古屋、きっと作者の体験が反映された風景なのだろう。リアリティを感じさせる。
トリックは突飛な気がするし、いろいろ都合よくものが運ぶ面はある。でも、青春ものの、どこかあっけらかんとした感じが心地よく、どんどん読めてしまう。
Posted by ブクログ
戦後の色濃い、探偵推理小説。
タイムスリップした様な感覚で読みました。
今の時代からはちょっと想像しにくい様な、教科書でしか知らない昔。時代によって価値観も常識も変わるんだと当たり前の事に気づかされます。
舞台は名古屋、わたしも以前住んでいたので広小路や栄などの地名が沢山登場するのは懐かしい気持ちになりました。
肝心のストーリーですが、王道本格ミステリに思います。密室トリックや犯人の動機なんかも硬派で、あぁ、久しぶりに本格ミステリを読んだという満足感がありました。
最後は、してやられました。コレが一番気持ち良かったです。楽しかったですね。
ただ、映画や俳優の会話がやや多かったのでそこは読み飛ばし気味でした。
Posted by ブクログ
評判良かったので、楽しみにしてたけど、少し期待より低かったかな。
ポイントは
・ヒロインの魅力と裏の顔、戦後の教育背景など、青春小説としては面白い。
・ミステリとしての、密室トリック・時間アリバイトリックはやはり物足りない。犯人も動機もある程度は読めてしまう。
・最後のシーンは、オッとなり綺麗に終らせてるね。終わりよければ全てよし。
Posted by ブクログ
本格ベストリベスト10で4位、このミステリーがすごいの1位など、話題となっていたミステリということで期待が高かったが、ミステリとしては完全に期待はずれ。
殺人事件は、2つ起こり、それぞれ密室殺人と首が切断された殺人と、いわゆる、古典的な本格ミステリらしい殺人事件が起こる。このトリックがチープで、密室殺人は、屋根が取りはずすことができ、近くの遊園地の滑り台から、巨大な算盤を利用して屋根から死体を入れたというもの。バカミスとしかいえない物理トリック。犯人の決め手となったのは、屋根から入ったはずの被害者の靴が玄関にあったことから、靴を入れることができた人物となっている点は、やや面白いが、トータルで密室トリックだけ見ると、バカミスの短編レベルのトリックでしかない。
首が切断された殺人も、死体発見時はまだ首はつながっていた。首が切断されていると誤認させ、切断する時間はなかったことから、アリバイが成立するというもの。首を切断した理由がアリバイになっている点は面白いが、そこまでのトリックではない。
ミステリとしてはともかく、戦後という時代の風俗を示した青春小説としてはそこそこ面白い。キャラクターもそれなりには魅力的。もっとも、辻真先が描くキャラクターは、戦後という時代設定もあってすこぶる昭和的。どこか懐かしくはあるが、既視感もある。目新しさは薄い。
戦後の風俗を示した記述が、このミステリの分量を増やしている原因でもある。この点の評価が高いのかもしれないが、個人的にはあまり魅力を感じなかった。辻真先なりのユーモアとあまり合っていないと感じる。ばかばかしさが魅力でもある辻ミステリに、重みや文学性を取り込もうとしたのかもしれないが、あまり合っていないと感じた。
トリックはともかく、前作、深夜の博覧会でも登場した別宮操が犯人ということで意外性を出している。かつて、東野圭吾の「名探偵の掟」で、シリーズキャラクターを犯人とする意外性が紹介されていたが、それに近い。別宮操は犯人ではないだろうという読者の思い込みを利用したミスディレクション。これは、さすが老獪な著者という感じ。もっとも、ほかに犯人足りえる人物がいないので、意外性があまり生きていない。ミスディレクションとなる人物がいればよかったのだが、辻真先にはそういった技術が薄く感じる。
冒頭部分、物語の初めで、別宮操に対し、「犯人はお前だ」というシーンから始まるという趣向も、面白くはあるし、この点を評価している人もいるが、軽い仕掛け。全体的に、もっと端的なミステリにして、さらっとこの仕掛けやバカミス的トリックを生かせば、より魅力を感じたと思う。
期待が高かったせいもあるが、総じて期待外れ。辻真先作品らしい外連味もそこまで感じず。独特の魅力もあるし、冒頭部分の仕掛けなど、よい部分もあるだけにおしい。★3程度
〇 総合評価 ★★★☆☆
もっとシンプルな構成にしておけば…いい部分もあるが冗長
〇 サプライズ ★★★☆☆
前作のモブ、今作のメイン級を犯人に据えているので、読者に「こいつは犯人ではない。」という先入観を持たせることはできている。しかし、ミスディレクションたる人物がいないので、真相が分かってもそこまで驚けない。手品的なミスディレクションのうまさが、辻真先にはない。
〇 熱中度 ★★☆☆☆
長い。冗長。正直、戦後風俗部分はいらない。ソリッドな謎解きにしてれば、もっといい作品になったと思う。
〇 インパクト ★★★★☆
「たかが殺人じゃないか」のくだり、冒頭の「お前が犯人だ」の仕掛け、密室のバカ物理トリックなど、インパクトはある。それと、戦後風俗部分が融合していない。評価が高い人は、融合しているという評価なんだろう。
〇 キャラクター★★★☆☆
昭和的で、ステレオタイプだが、それだけに安定した魅力はある。
〇 読後感 ★★★★☆
別宮操が犯人で死亡。読後感はよくない。ただ、別宮操いいキャラクターなだけに、生徒を使ってあれやこれやと、罪を逃れようとしている点がなんとも整合性を感じない。その上で、那珂一兵を読んで、自らの犯行を暴かせる。なんとなく、面白い展開にしたかったのだろうが、ストーリーとして整合性に欠ける。
【登場人物】
風早勝利(主人公。ミステリ作家を目指す。東名学園高校3年の推理小説研究所属)
別宮操(前作、「深夜の博覧会」にも登場。代々尾張徳川の別式女)
咲原鏡子(上海帰り)
大杉日出夫(東名学園高校3年生。映画研究会所属。あだ名はトースト)
用宗恭司(東名学園高校の校長)
神北礼子(推理小説研究会所属。あだ名は級長)
薬師寺弥生(映画研究会所属。あだ名は姫)
小木曽篤(旅荘ゆやの主人)
郡司英輔(市議会議員)
徳永信太郎
犬飼刑事(「深夜の博覧会」の事件に続き、今回の事件を担当)
ハヤト・ロビンソン
那珂一兵
【メモ】
・昭和24年。ミステリ作家を目指す風早勝利が主人公
・舞台は、名古屋市内の新制高校。主人公達はこの高校の3年生
・学制改革により1年だけの共学生活
・勝利は、推理小説研究会の会員。同じ部室で映画研究会が活動をしている。
・両研究会が、中止になった修学旅行の代わりに、合宿に行く。
・序章 推理小説を書きだした p10~p14
「犯人はお前だ!」として、部室のドアを鉛筆で指すところに、別宮操等が入ってくる場面から始まる。登場人物の紹介。風早勝利(カツ丼)、別宮操、咲原鏡子、大杉日出夫(トースト)が登場。推理小説研究会と映画研究会の共同の部室に、教師の別宮操が、転校生の咲原鏡子を連れてくる場面
第1章 男女共学がはじまった p15~p50
時代背景、舞台の紹介。終戦直後の名古屋が舞台。男女共学がはじまり、学校の合併等がある。風早は、合併でできた東名学園高校に3年生として入学
映画や推理小説談義。中止になった修学旅行に代わり、推理小説研究会と映画研究会が合同で、奥三河に合宿に行くことになる。
咲原鏡子には、何らかの秘密があるようで、風早の家の料亭に来た議員が咲原のことを聞く。
第2章 第一の殺人ー密室 p51~p143
合宿のため、湯谷温泉へ。一同は、「旅荘ゆや」に泊まる。「夢の園」という遊園地の跡地に行く。猫の死体をきっかけとして、一同は、密室内で、徳永信太郎の死体を発見する。
過去のエピソード。風早と咲原は、5年前に、湯谷温泉があるこの地で偶然に会っていた。その際に、咲原と一緒にいた少女、野々村節は、現在は行方不明
野々村節は現在は施設にいるが、息子と名乗る謎の人物が会いに来ていた。
密室の推理等をするが、就学旅行は終わる。
第3章 闇市で少年は遭遇する P144~p175
修学旅行後、風早は、推理小説を買いに行った闇市、新宿マーケットで、咲原鏡子に会う。
咲原鏡子が、もともと、進駐軍の慰安婦で、ハヤト・ロビンソンという人物に囲われていることなどの境遇が明らかになり、3章の終盤で、名探偵として、那珂一兵の登場が示唆される。
第4章 探偵は推理する気がない p176~p196
勝利の家の店に、別宮が訪れ、那珂一兵も登場。映画談義の後、密室事件について聞くと、「密室?そうじゃないと思う……」と答える。別宮は「やはり、ね……」と答える。ここで、「そう呟いたときの操の表情が、勝利にはのちのちまで忘れられない」という点が、別宮が犯人だと分かってから見ると、伏線にも思える。
密室の話はお預けで、学園祭の催しのミステリドラマで大道具を借りることができるという展開に。
勝利がシナリオを描く。二人の女が男をめぐって決闘する。礼子から誘いがあり、ヒッチコックを見に行くことに。この日のことを振り返り、勝利の目には涙が。
第5章 キティ台風襲来の夜に P197~P249
ミステリドラマの台本完成。別宮が頭に血がのぼると見境がなくなるという伏線がある。
ミステリドラマは、女Aと女Bがどちらが毒を飲むか決闘。使用人の女Cも、主人と結婚する計画を立て、両方に毒を入れる。しかし、女Aと女Bはこれを見抜いており、起き上がるが、落雷で3人とも死ぬというオチ
落雷のシーンを撮るために、実際の台風の日に撮影をするという計画を立てる。
キティ台風の日に撮影。弥生の姉が進駐軍慰安の仕事のために自害した話等がある。撮影のシーンでは、別宮が忘れてはならいことまで忘れる。私も似たようなものか…というシーンが混ぜ込まれる。これも、別宮が犯人という伏線に見える。
撮影を終えて撤収しようとすると、郡司議員がやってくる。郡司に見つからないように解散しようと偵察するが、…郡司議員の首が見つかる。
第6章 第二の殺人 解体 P250~P281
勝利と礼子が、勝利の家で、郡司議員の解体殺人の謎を検討する。
読者への質問状 P282
第7章 共学最初の学園祭にて P283~P328
学園祭で、大杉と礼子のステージがあったが、バンカラの天野が大声で蛮声があがり、妨害する。礼子が涙を流す事態になるが、ハヤト・ロビンソンの演奏で、鏡子が歌を歌う。ステージは成功する。ハヤトと鏡子が結婚していることが分かる。ハヤトと鏡子は、ハヤトの祖母のために渡米したいが、郡司議員の事件が解決しないと渡米ができない。
勝利が、密室事件、解体事件をミステリとして書いている。これを別宮にも見てもらおうとする。別宮は読もうとしない。那珂一兵と連絡が取れる。
那珂一兵は、解体殺人現場に関係者を集めるように言う。
第8章 密室殺人はいかにして行われたか P329~P355
那珂一兵による、民主1号での密室殺人の謎解き。トリックは、密室1号の建物は、組み立て住宅。屋根板を1枚滑らせて、長方形の穴をあけていた。そして、隣の遊園地の滑り台を利用し、そろばんをゴーカートのように利用して、滑らせ、死体を屋根から家の中に入れた。これが密室トリック。トリックだけ見れば見事なバカミス的物理トリック。
第9章 解体殺人はいかにして行われたか。P356~p392
郡司議員の解体殺人のトリックは、勝利達が見た時点ではまだ首が切られていなかったというもの。車の中からルーフウインドウ越しに死体を持ち上げ、屋根に座らせて首だけ二階の床から出した。首を切断したのは後。
密室殺人の際に、玄関に靴を置いた人物、解体殺人でも殺害する5分の単独行動時間があった人物、犯人は別宮操。前作、深夜の博物館から登場していたシリーズキャラクターが犯人
第10章 たかが殺人じゃないか P393~P420
殺人の動機。それは、別宮が、妹=節を徳永と郡司に殺害されていたから。敗戦の日、徳永と郡司は米兵の命を救おうとした節を殺害していた。
別宮は、祖母のところを訪れ、節の日記を持ちだし、このことを知る。徳永から、「殺したのはたったふたりだ。10万100万の命をやり取りする戦争を思えば児戯に等しい。さよう……たかが殺人ではないか!」というセリフを聞く。これがこのミステリのタイトルになっている。
別宮は即席で密室を作った。別宮は、密室を捜査の壁にした。探偵小説が推理小説に脱皮する時代なんだ、と那珂一兵はいう。
別宮は、自分の保身に生徒を利用した自分を許せなくなり、那珂一兵を呼んだという。
別宮は、勝利にミステリを書き終えるように言う。
終章 推理小説を書き終えた P421~P424
別宮は再検証の際に、落水した恩智院長を助けて溺死。勝利はミステリを書き終える。その冒頭で別宮を犯人として指摘する、そういう冒頭を添えて。
「犯人はお前だ!」…部室にはいろうとした別宮操先生も、目をまるくして立っている。「ヘエ、私が犯人?」