あらすじ
ヒマラヤ・アンナプルナ山群の聖峰マチャプチャレにアタック中、友を雪崩で亡くし、凍傷で指を五本失いながらも、麻生誠はついにその頂上に立つ。そこで眼にしたのは、月光を浴びて輝く螺旋の群れ――オウムガイの化石であった。帰国後、不思議な現象が起こる。麻生がマチャプチャレの山頂で見た螺旋を思い描くと、耳の奥に澄んだ鈴の音が流れ、二、三秒先の未来が見えるようになったのだ……。
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Posted by ブクログ
オウムガイから螺旋をめぐる宇宙のお話。
とても不思議な読後感でした。
著者が得意とする爽快な読後感やカタルシスをほとんど味わうことがなく、逆にそれが妙に心に引っかかるようなそんな印象を受けました。
といって、それぞれのエピソードは読みごたえのある作品であり、登場人物一人一人に感情が向けられるようでした。
オウムガイにそんな歴史やロマンがあるとは、今まで想像したこともなかったので、気づきや視点とは、とても大切なことだと改めて感じました。
Posted by ブクログ
夢枕獏『月に呼ばれて海より如来る〈新装版〉』徳間文庫。
2001年に同じ出版社から刊行された文庫の新装版ということで、過去に読んだことがあるが、再読してみることにした。
未完の作品である。
螺旋を巡る物語だ。時折、夢枕獏の小説には螺旋が登場する。螺旋を集める男の話は『上弦の月を喰べる獅子』だったろうか。今年読んだ『混沌の城』にも螺旋が登場した。
アンモナイトやオウムガイの完璧な螺旋にまつわる不可思議。ヒマラヤ山脈の高山がかつては海の底だったという不思議。
第一部。前半は山岳小説の展開。主人公の麻生誠は4人でパーティーを組み、ヒマラヤの聖峰マチャプチャレの冬期登頂を目指す。雪崩で友人のパートナーを失い、凍傷で指を5本失いながら、頂上に立った麻生はそこでアンモナイトの化石を目にする。月光を浴びた夥しい螺旋と完璧で巨大な螺旋に声を掛けられた麻生。
後半は一転して、伝奇小説といった展開になる。帰国後、オウムガイの螺旋に魅せられた麻生は頻繁に水族館を訪れ、生きているオウムガイを見る。麻生は水族館でオウムガイを担当する布引という同年代の男と知り合う。
やがて、麻生は自らの身に起きた異変に気付く。異変はあの完璧で巨大な螺旋を思い描いた時に起こる。
第一部のラストで麻生の前に突如、現れた……
第二部。山をさ迷う源造という男の物語。妻子を食い殺した巨大な熊を仕留めるために山中をさ迷う源造。しかし、物語は突然終わる。こんな終わり方はあるのかというくらいに余りにも突然に終わる。
本体価格770円
★★★★
Posted by ブクログ
登山家・麻生誠は、現地政府の許可を得ない違法なアタックでヒマラヤの霊峰・マチャプチャレに挑む。猛吹雪に襲われ、友の生命と自身の指五本を犠牲にしながら頂上を目指した麻生が目にしたのは、煌々とした月の光に照らされた巨大なオウムガイの化石だった。
なんとか下山して帰国した麻生は、オウムガイに異常な執着を見せるようになる。連日通う水族館でオウムガイを担当している布引と交流するようになり、布引からオウムガイにまつわる様々な奇譚を聞き、さらにオウムガイへの興味を深める麻生の身に、やがて不思議な出来事が降りかかる・・・。
事前に知ってはいたんですけど、こちらの想像以上に突然、本当に突然、話が終わります。ブチっと終わります。これ以上ないほど話を放り出した形での「未完」作品です。
それでも、巻を閉じた後にそれなりの充実感があるのは、夢枕獏作品ならではの世界観と美学に満ち溢れているから、でしょうね。
未完であることをもって激しく罵倒しているレビューも散見されますが、正直申し上げて、夢枕獏作品はかなりの割合で未完です(苦笑)作者本人が飽きてしまうのか、疲れてしまうのか?その辺はよくわかりませんが、まぁそういう作家で、読む方もある程度織り込み済みで読んでますので、未完であること自体には、鴨はそれほど抵抗はありません。
未完作品ばっかり世に送って、それでもこの作家が作家として活動を続けていられるのは、一重にストーリーよりも物語の世界観や肌触りに重きを置く作風だから、だと鴨は思います。螺旋・宇宙・月・音楽・雪山・女体・時間・・・様々な要素をてんこ盛りに盛り込んで、感覚的に「理解できそうで理解できない何かを語る/騙る」、それが夢枕作品です。ロジカルな構築は、ほぼ感じられません。ひたすらに感覚的で官能的で、とにかく美しければ良い。理屈はいらない。そういう作風です。だから、未完でも刊行されちゃいますヽ( ´ー`)ノ
そんな特徴的な作風を、思いっきり凝縮している作品だと、鴨は思います。
とはいえ、さすがにこの尻切れトンボっぷりは、高評価することはできません。でも、それなりに面白いですよ。
十数年ぶりに夢枕作品を読んで、「そうそう、これだよな〜」と不思議な充実感を味わえました、はい。