あらすじ
佐藤泰志は村上春樹と同世代の作家。芥川賞に5度ノミネートされながら受賞できず、1990年に41歳で自死。しかし、2000年代後半になって再評価が進み、『海炭市叙景』『そこのみにて光輝く』『オーバー・フェンス』『きみの鳥はうたえる』『草の響き』などが次々に文庫化され、また映画化されている。
高校生作家として脚光を浴びながら、その作家生活が挫折に満ちたものになったのはなぜか。そして、30年の時を経て、その文学が読者の心を摑むのはなぜか。近親者はもとより、小学校のクラスメイトから大学時代の同人誌仲間、泰志が一方的に思いを寄せた後の直木賞作家・藤堂志津子、ライバルの作家たち、文芸誌編集者らまで、あらゆる関係者に直接話を聞き、文学に希望があふれていた時代の光と影を再構築する。
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Posted by ブクログ
分厚い本ですが、読みやすかった。「そこのみにて輝く」で佐藤泰志さんを知り、映画もみました。この評伝は、佐藤氏の生い立ちから亡くなるまでを膨大な資料で書き起こしたもの。芥川賞選考がちょうど厳しかった時期だったため、受賞を逃してしまったのか。。文体やテーマがアメリカや海外的なカラっとしてるのが選考委員に受け入れなかったのか。。もし受賞してたらどうだったのだろうか。。いろいろ考えてしまいます。
高校時代から受験誌の創作コンクールでは常連、有名人。バイトしながらの私生活。函館の街。80−90年代の時代も味わえると思います。
Posted by ブクログ
北海道函館市で生まれ、4回の芥川賞候補となりながらも受賞を逃し、41歳で失意のうちに自殺した作家、佐藤泰志。当時の文壇はW村上を始めとして、伝統的な日本近代文学の世界とは全く異なる作風の作家が台頭し始めており、派手派手しい”ポストモダン文学”が登場し始めたのもこの時代である。そんな中で決してそのような派手さを持たない佐藤泰志の作品の生前評価は低かったが、2010年に『海炭市叙景』が映画化されることで再注目を浴びる。2010年代には静かなムーブメントとして複数の作品が映画化されながら、絶版になっていた小説も復刊され、見事なまでの死後の再評価を遂げることとなった。
私自身が佐藤泰志を知ったのもまさにその時期である。読書好きの方からの勧めで読んだ『海炭市叙景』は、街としての勢いを失くしてしまっている当時の函館を模した海炭市という地方都市を舞台に、厳しい生活を送る市井の人々の生きざまを描いた傑作であり、「こんな素晴らしい作家がいたのか」という感動と共に読み終えたのを覚えている。
さて、本書は10年以上にも及ぶ長期間の取材を経て、元新聞記者の著者が描いた佐藤泰志の圧倒的な評伝である。タイトルにある「狂伝」にあるように、文学という筆一本の世界でなんとしても生きていこうと、精神を病みながらも原稿用紙に向かい続けた彼の生きざまを一言で表すのにここまで適切なタイトルもないだろう。それくらいに彼が生命を賭した文学への思いはすさまじく、それが故に共に暮らした妻や子供たちにとってはその生活が快いものばかりではなかったという点も明らかになる。
本書は2010年代以来の再評価ムーブメントの中で佐藤泰志を知った私のようなファンにとって面白く貴重であるというのはもちろんである。一方では、芸術という自身の才能を信じて作り続けるしか解のない世界を生き抜くということの凄まじさを知らしめてくれる貴重なドキュメントとして、決して彼の作品を知らない人にとっても驚嘆させられる一冊であるように思う。