あらすじ
田中優子氏・茂木健一郎氏推薦!
第18回開高健ノンフィクション賞で議論を呼んだ、最終候補作
生活保護支援の現場で働いていた著者は、なぜか従来の福祉支援や治療が効果を発揮しにくい人たちが存在することに気づく。
重い精神疾患、社会的孤立、治らないうつ病。
彼ら・彼女らと接し続けた結果、明らかになったのは根底にある幼児期の虐待経験だった。
虐待によって受けた“心の傷”が、その後も被害者たちの人生を呪い続けていたのだ。
「虐待サバイバー」たちの生きづらさの背景には何があるのか。
彼ら・彼女らにとって、真の回復とは何か。
そして、我々の社会が見落としているものの正体とは?
第18回開高健ノンフィクション賞の最終選考会で議論を呼んだ衝撃のルポルタージュ、待望の新書化!
【推薦】
虐待は人の一生をどう変えてしまうのか。
本書は現場からの生々しい報告だ。
――田中優子氏(法政大学名誉教授)
著者の根本態度は信頼できる。
まさにこの時代に読まれるべき大切な一冊。
――茂木健一郎氏(脳科学者)
【目次】
はじめに
第一章 虐待のち、生活保護
1 どのような人が生活保護を受けているのか
2 たったひとり、生活保護に流れ着く
第二章 心に深く刻まれた虐待の傷あと
1 解離性障害――繰り返される記憶の空白
2 パニック障害――抱えてきた恐怖があふれでる
3 燃え尽き症候群――治らないうつ病の正体
4 精神科治療が見落としてしまうもの
第三章 愛着関係を理解する
1 愛着関係は心が健全に発達するための基盤
2 愛着関係の恩恵を受けられない人たち
第四章 目には見えない虐待を見る
1 発達障害だと思われた男の子
2 人からのやさしさを「拒絶」する心理
3 思春期がない女子中学生
4 本質的な問題が見落とされてしまう理由
第五章 虐待理解を阻むもの
1 なぜ、児童虐待は起こるのか
2 「支援者側の心理的問題」を考える
第六章 回復――虐待された理由を知る
1 「自分の子どもを好きになれない」という母親
2 回復とは、自分を深いところで理解すること
3 古い生き方が壊れ、新しく生きはじめる
4 「被虐待者」の回復から教わったこと
おわりに
参考資料・参考文献
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Posted by ブクログ
リハビリテーションの臨床に携わっていると障がいのみならず、個々の社会背景にぶつからざるを得ない。社会的弱者となる高齢者や小児を含む障がい児者の関わりは、障がい固有の問題だけでは解決しきれず、専門家の力も借りつつも、社会背景や生育歴、家族との関係など、否応なく考えさせられる。体調不良を起こす職員の対応についても従来は個人や職場の問題のみで捉えて解決を試みてきたが、近年は、職員とのたわいのない対話の中で、家族との関係や生育歴、経済状況、将来不安など、職場とプライベートの課題が相互に入り組んで、本人が苦しんでいること実感する。
前振りは長くなったが、本書の著者は、精神保健福祉士、公認心理師として、病院での心療内科領域の経験を活かし、教育委員会や福祉事務所での経験や教訓について、事例を元に丁寧に患者に向き合う。特に、若年生活保護者の課題や施設入居者等の18歳の制度上の壁を問題点としている点は、若い女性を性被害からなくそうとする仁藤夢乃さんの取り組みと重複するように思う。個々の症例の生い立ち、家族、とりわけ主たる養育者との関係で虐待サバイバー(暴力から生き抜いた人)となり、当事者の負のスパイラル思考を招き、自己責任に陥る様を丹念に検証する。養育者の虐待を契機に、心に深く刻まれた虐待の後遺症として、解離性障害、パニック障害、燃え尽き症候群などとして表れることを考証する。また適切な時期に適切な養育者との関係が問題となる愛着障害については、養育者からの「共感」で発達し、育まれていく重要性を強調する。そして、自身の生い立ちを振り返る中で、自己思考の変容と社会復帰、自立していく様は、非常に興味深い。行政機関や教員等の職員の対応とは一線を画しつつ、著者の関わりの反省も含めて、個々の事例に向き合う様は、やはり臨床家として真摯な姿勢に感銘を受ける。一方で、重要なことだが、著者が事例を通じて、たえず学ぶ姿勢をとり、相手に自身の意見を押しつけず、本人の気づきを大切にする姿勢は、ロールモデルとしたい。
Posted by ブクログ
衝撃的だった。とにかく衝撃的だった。
この本のすごいところは虐待分野に関心がある記者やルポライターが書いたわけでもなければ、精神科医や児童相談所の職員が書いたわけでもないところ。
一現場のカウンセラーがありのままに描写し、その「リアル」を読者に伝え、同時に考えさせているところに凄みを感じた。
おそらく本書が一番訴えたかったであろうところの「色眼鏡越しでは虐待を正しく理解できない」は、強く同感。
この世の中の多くの人は、ある意味で「親から愛されてきた」という問題を抱えていると著者は指摘し、だからこそ「親から愛されてこなかった」人たちの心の傷も、子に虐待する親の心理も、理解しているどころか見えていないことすら気づいていないとの主張には反論の余地がなかった。
だとすると、これまで通りの虐待防止策を講じたところでなんの意味もないのではないか! と思ったら、著者もそれを指摘していた。
特に第6章の、被虐待者たちの回復過程を記している場面は涙が出た。
楽な回復なんてないのだと痛感した。
しかし、当事者も著者もそこから逃げることなく正面から向き合っていた。
カウンセリングの力というか、その神秘に、心打たれた。
文章も上手く、本の中の世界に引き込まれた。
福祉や教育、精神科医療に携わる人には必読であると感じた。もっと本書に書いてある内容が世間に広がれば、児童虐待を取り巻く環境も少しづつ変わっていくのではないかと期待を抱くことができた。それだけ今のままではなんの変化も望めないだろうことが見えてくる書物でもある。
これまでの類書にはない事実の重みが、この本にはあるように思う。
Posted by ブクログ
支援者がもつ「親は子を愛するのが当たり前」「話せばきっとわかってくれる」という考えが、虐待を受けている子、受けてきた大人を助けるどころか苦しめている、という主張はもっともである。支援者が今まで無意識に築いてきた家族観、家族に対する常識とは異なる家庭がある、ということに想像力を働かせないといけない。
Posted by ブクログ
"ご飯と洋服と住む家しかなかったのである"
「え?結構あるじゃん?」と思った方。
虐待の様々な面が見える1冊。
著者のカウンセリングアプローチもよくわかる。
必読です。
Posted by ブクログ
自分も虐待サバイバーとして、読むのを躊躇ったが今度の為と思い読み始めました。グサグサと心に刺さる過去の刃はありましたが、今は客観的に見れた自分がいました。今後は気持ちが分かる支援者として、誰かの役に立てればと思います。