あらすじ
生まれたばかりの娘を置いて、妻はどこへ消えたのか――。世界が新作を待ち望む作家、余華の8年ぶりの長編。
20世紀初頭の清末民初、匪賊が跋扈し自然災害が襲う混迷の時代、林祥福は、兄とともに南方の町「文城(ウェンチョン)」からやって来た女・小美を妻にする。束の間の幸せが訪れたが、小美は生まれたばかりの娘を置いて姿をくらましてしまう。林祥福は娘を連れて妻の故郷を探す旅に出るが……。人災と天災、過酷な運命に翻弄され、それでも強く生きていく人々を描く大河巨編。
中国で100万部突破! 余華が20年あまりの歳月をかけて書き上げた、世界的ベストセラー『活きる』の前史。
「この儚くも強靭な人生を見よ! 作家として嫉妬し、いち読者として感嘆し、中国にルーツを持つ者としての誇らしさが止まらない。」東山彰良氏推薦
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Posted by ブクログ
作者である余華の作品は、「活きる」をチャン・イーモウ監督の映画で見て、小説そのものを読むのは本作が初めて。
読み始めて最初は、なかなか前に進まないが、1/3ほど進んだあたりから、読むスピードが一気に加速して、一気呵成に読み終えることができた。時は清国末から民国初めの混乱を極めた中国で、市井の人たちが送った苦難の日々を描いている。著者が日本の読者に向けて書いたあとがきでは、この小説を「伝奇小説」としているが、しかし「伝奇小説」と言われると、私などが真っ先に思い浮かべる「聊斎志異」のような怪異小説ではなく、「紅楼夢」や「水滸伝」、「三国志演義」に通じるところも感じてしまう。(「西遊記」はちょっと違うかも)
泣かせるところは泣かせて、ハラハラ・ドキドキのところもあり、かなり残虐な描写もある。(残虐なシーンは、幼い頃に宴席で中国戦線帰りの近所の爺様から聞かされてトラウマになった日本軍の残虐行為に酷似する)
著者は断続的に書き継ぎ、21年かけて本作を完成したと書いている。
主人公・小美(シャオメイ)は、著者・訳者あとがきでも触れているとおり、部分的には自立した女性ではあるのだろうが、時代的・社会的制約からは完全に自由になりきれなかったのだろう。書ききれなかった、あるいははめ込みきれなかった部分は、年代的には遡って本編のあとに補編として書かれている。ここはやや説明的なところもあり、完成度は若干落ちる感じがする。しかし、全体としては中国長編小説の伝統を引き継いだ読み応えのある小説であった。