【感想・ネタバレ】ソ連兵へ差し出された娘たちのレビュー

あらすじ

【2022年 Yahoo!ニュース|本屋大賞 ノンフィクション本大賞 ノミネート】

文芸評論家・斎藤美奈子氏激賞!
第19回開高健ノンフィクション賞受賞作

1945年夏――。日本の敗戦は満州開拓団にとって、地獄の日々の始まりだった。
崩壊した「満州国」に取り残された黒川開拓団(岐阜県送出)は、日本への引揚船が出るまで入植地の陶頼昭に留まることを決断し、集団難民生活に入った。
しかし、暴徒化した現地民による襲撃は日ごとに激しさを増していく。
団幹部らは駅に進駐していたソ連軍司令部に助けを求めたが、今度は下っ端のソ連兵が入れ替わるようにやってきては“女漁り”や略奪を繰り返すようになる。
頭を悩ました団長たちが取った手段とは……。

《開高賞選考委員、全会一致の大絶賛!》
作品は、共同体の「自己防衛」のために女性たちを「人柱」に捧げる「隠された暴力」の柔らかなシステムを浮かび上がらせている点で、極めて現代的な意義を有していると言える。
――姜尚中氏(東京大学名誉教授)

本書は、変わることのできなかった日本人の問題として悲しいことに全く色褪せていないのである。
――田中優子氏(法政大学名誉教授)

犠牲者の女性たちが著者の想いと心の聴力に気づいて、真実の言葉を発してくれたのだ。
――藤沢周氏(芥川賞作家)

この凄惨な史実をほぼすべて実名で記した平井の覚悟と勇気は本物だ。
隠された史実の掘り起こしだけではない。ジェンダー後進国であるこの国への果敢な挑発であり問題提起でもある。
――森達也氏(映画監督・作家)

ディテールの迫力が凄まじい。当時の触感や恐怖がそのまま立ち上がってくるような、生々しい感覚を見事に描き出した文章に圧倒された。
――茂木健一郎氏(脳科学者)

《推薦》
今日の「性暴力」にまっすぐつながる過去の「性接待」。その事実に、あなたは打ちのめされ、そしてきっと覚醒する。
――斎藤美奈子氏(文芸評論家)

【著者略歴】
平井美帆(ひらい みほ)
1971年大阪府吹田市生まれ。ノンフィクション作家。
1989年に高校卒業と同時に渡米し、南カリフォルニア大学に入学。同大学で舞台芸術と国際関係学を学び、1993年卒業。
その後、一時東京で演劇活動に携わるも1997年に再び渡米し、執筆活動を始める。2002年に東京に拠点を移す。
著書に『中国残留孤児 70年の孤独』(集英社インターナショナル・2015)、『獄に消えた狂気 滋賀・長浜「2園児」刺殺事件』(新潮社・2011)、『イレーナ・センドラー ホロコーストの子ども達の母』(汐文社・2008)など。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

毎年8月には先の大戦に関する書籍を意識して手にするようにしています。

そんな中で手にした本書。

今までに手にしてきた戦争関連本とは全く違い、国策として満州へ渡った黒川開拓団の「接待」について著者である平井美帆さんが実体験を聞きまとめたノンフィクション作品。

「減るもんじゃない」
この一言は酷すぎるし、辛すぎる。

敗戦の直前になり突如として参戦したソ連。

北方領土の問題だけでなく、かつて満州と呼ばれた地もソ連軍により攻め込まれたことを改めて実感。

いわゆる従軍慰安婦の問題で戦争により女性が性の被害を受けた事実があることは知っているつもりです。

しかし、本書で語られるのはソ連軍に「接待」の名の元、貢物のように差し出された日本人女性の辛く悲しい歴史。

一億総玉砕の名の元、「特攻」という非人道的作戦にて命を落とした多くの若者は当然ながら男性であり、今までは男性視点での関連書籍しか手にしてこなかったことにも改めて気づかされました。

「戦争は勝っても、負けても、残酷。まして負けては、女や子供が犠牲になる」と玲子さんは語気を強めて語ったという。

当時の被害女性と同年代の娘を持つ父親として、胸が張り裂けるような思いをしながらも、目を背けてはいけないと言い聞かせ読み終えることが出来ました。

あの戦争から今年で78年。

多くの戦争体験者が鬼籍にはいられ、年々後世に実体験を語れる人達も少なくなっているのも事実。

残酷な歴史から人類は何を学んだのか。

残念ながら地球規模でみればロシアを筆頭に今も戦争を起こしている国がある。

平和への願いと共に忘れては、目を背けてはいけない、歴史が記されていました。



【第54回大宅壮一ノンフィクション賞(2023年)ノミネート】

文芸評論家・斎藤美奈子氏激賞!
第19回開高健ノンフィクション賞受賞作

1945年夏――。日本の敗戦は満州開拓団にとって、地獄の日々の始まりだった。
崩壊した「満州国」に取り残された黒川開拓団(岐阜県送出)は、日本への引揚船が出るまで入植地の陶頼昭に留まることを決断し、集団難民生活に入った。
しかし、暴徒化した現地民による襲撃は日ごとに激しさを増していく。
団幹部らは駅に進駐していたソ連軍司令部に助けを求めたが、今度は下っ端のソ連兵が入れ替わるようにやってきては“女漁り”や略奪を繰り返すようになる。
頭を悩ました団長たちが取った手段とは……。

《開高賞選考委員、全会一致の大絶賛!》
作品は、共同体の「自己防衛」のために女性たちを「人柱」に捧げる「隠された暴力」の柔らかなシステムを浮かび上がらせている点で、極めて現代的な意義を有していると言える。
――姜尚中氏(東京大学名誉教授)

本書は、変わることのできなかった日本人の問題として悲しいことに全く色褪せていないのである。
――田中優子氏(法政大学名誉教授)

犠牲者の女性たちが著者の想いと心の聴力に気づいて、真実の言葉を発してくれたのだ。
――藤沢周氏(芥川賞作家)

この凄惨な史実をほぼすべて実名で記した平井の覚悟と勇気は本物だ。
隠された史実の掘り起こしだけではない。ジェンダー後進国であるこの国への果敢な挑発であり問題提起でもある。
――森達也氏(映画監督・作家)

ディテールの迫力が凄まじい。当時の触感や恐怖がそのまま立ち上がってくるような、生々しい感覚を見事に描き出した文章に圧倒された。
――茂木健一郎氏(脳科学者)

《推薦》
今日の「性暴力」にまっすぐつながる過去の「性接待」。その事実に、あなたは打ちのめされ、そしてきっと覚醒する。
――斎藤美奈子氏(文芸評論家)

【著者略歴】
平井美帆(ひらい みほ)
1971年大阪府吹田市生まれ。ノンフィクション作家。
1989年に高校卒業と同時に渡米し、南カリフォルニア大学に入学。同大学で舞台芸術と国際関係学を学び、1993年卒業。
その後、一時東京で演劇活動に携わるも1997年に再び渡米し、執筆活動を始める。2002年に東京に拠点を移す。
著書に『中国残留孤児 70年の孤独』(集英社インターナショナル・2015)、『獄に消えた狂気 滋賀・長浜「2園児」刺殺事件』(新潮社・2011)、『イレーナ・センドラー ホロコーストの子ども達の母』(汐文社・2008)など。

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2023年08月09日

Posted by ブクログ

ネタバレ

ソ連兵へ差し出された娘たち

著者:平井美帆
発行:2022年1月30日
集英社
(第19回開高健ノンフィクション賞受賞作)

岐阜県の黒川村(現在の白川町)の人々が、満蒙開拓団で満州に渡り、戦後、取り残される中でソ連兵に独身の娘を(形の上では本人同意のもとに)差し出して、「接待」をさせたという事実を紹介したノンフィクション。この本がスクープしたということではなく、もともと知られた話で、マスメディアでも報じられていたようだ。この本は、直接それを体験した(差し出された)人たちに取材を重ね、非常に分かりやすく明快に書いている秀作。久々に出会った4★本だった。

終戦となり、傀儡政権だった満州国が解放され、ほぼ力尽くで現地の人から奪っていた農地を放棄、そして帰国も出来ずに開拓団だけかたまって生きていれば、当然のことながら現地の人たちから仕返しをされる。暴徒に襲われ、物を奪われ、そして強姦もされる。なんとかしなければと、駐留しているソ連の治安維持部隊に団の幹部(男たち)が頼みに行く。結局、独身の若い女性を「接待」として差し出すことになった。ずっと行かせるのではなく、狭い簡易な接待場として使うスペースで、複数のソ連兵の慰め物にされる。村のみんなを守るためだ、みんなが生きるためだ、力を貸してくれと頼まれ、形の上では同意して、呼ばれると出かけていく。

でも、それではすまなかった。ソ連兵は〝公式に〟設定された「接待」枠だけじゃなく、若い兵士が強姦をするようにもなった。それに加え、中国共産党の八路軍と国民政府軍の内線が激化する中、どちらの兵隊かは分からないが、そちらから強姦されたことも。それはソ連兵への「接待」行為の後のことだった。さらには、引き上げる際、橋を渡る時にもその条件として「接待」が通行料として求められた。共産側か国民側かは、これも不明。そして、最悪なこともあった。開拓団幹部のある男が、なんと満人(満州族以外も含めて現地の人間をそう呼んだ)から金を受け取って管理売春をしようとしたのだった。恐らく、幹部の藤井軍平という人物。もちろん、させられる本人はそんなことを知らない。買った方の満人はすでにお金を払っているのに拒否とは何事だと激怒・・・

若い10代の彼女たちの犠牲のもとで、なんとか引き揚げてきたが、そこに待っていたのは彼女たちに対する蔑視だった。「汚れている」とされ、結婚できない、できたとしても姑からいじめられ、こき使われて早死にさせられる。団の幹部でその後、遺族会の幹部になった男たちからは感謝もお詫びの言葉もない。それどころから「減るもんじゃないし」という言葉を折あるごとに浴びせてくる。これほどの屈辱感はないだろう。

敗戦と同時に使命である開拓団たちを守ることを放棄し、いち早く逃げ出した関東軍。もぬけのからとなった軍の倉庫には豊富な食料が残されていた。しかし、それらも奪われ、生きていくために必要な塩をもらうために「接待」に差し出された娘たち。それを仕切ったのも、やはり威張り腐った団の幹部、すなわち男たち。集団自決を呼びかけていた連中が、自ら生きんがために娘を「盾」として差し出す。その上にいて一番安全ところで生き抜いたのは軍人、政治家、そして、もちろん頂点に天皇がいたことを忘れてはいけない。責任が問われたのはそのうちのいかほどだろうか。

*******

1945(昭和20)年8月9日のソ連対日参戦時、旧満州国で肉親と離別し、身元の分からない12歳以下の日本人児童が「中国残留孤児」。
13歳以上で旧満州国にいた日本人が「中国残留婦人」。ただし、男性も含まれていたため、正式名称は「中国残留婦人等」。

難民生活の期間は、ソ連の対日参戦から集団引き揚げが本格的に始まる約1年間。

「接待」役にされたのは、数えで18歳以上の未婚の女性。19歳か20歳ぐらいだと結婚しているケースがほとんど。黒川開拓団は600人余りで、おそらく15、6名、うち4人は満州で死亡。引き揚げてきたうちの8、9人も既に死亡。

満州開拓といっても、自分たちで開拓するのではなく、現地の人がすでに開拓している農地を安く買う(取り上げる)。地元の満人(満州族に限らず暮らしていた人々)は生きていけなくなるため、なんとかしてくれと開拓団に連日交渉して頼み込む。この強引な追い出しが、戦後の暴民による略奪や暴動につながったことは想像に難くない。

一家族に東京ドーム2個がすっぽり入るほどの耕地が割り当てられた。

満州開拓団全体で約4割強が命を落とした。

「開拓団を守るのか、このまま自滅してしまうのか、おまえたちの力にあるんだと男たちから言われ、本当に悲しかったが開拓団の何百名の命を救うために、泣きながら(ソ連の)将校のお相手をすることになってしまった」(21歳、善子)

「明日、団に塩がない。塩がなけりゃ、コーリャンご飯が食えへんで。その塩、もらわんなんで、頼む、行ってくれ!」団幹部の藤井三郎がセツを呼びに来てそう言った。

接待の後、元衛生兵と称する「アサヒ」が性病と妊娠予防にと膣洗浄をした。この効果があったかどうかは疑わしいが、妊娠をした者はなかった。

「接待」をした場所は、入植時に学校の教室として使われていた8畳~10畳ぐらいの部屋。そこに4人ほどの娘が、同数かそれ以上の人数のソ連兵の前に差し出された。

引き揚げ船に長春(新京)から乗るために新京に行く。無事に行くために、九州の元兵隊さんと男女関係になって守ってもらった。博多につくまでの関係。「博多別れ」と呼んだ。日本の港に着くまでの間、赤ん坊を抱いた母親が元兵士などを頼る光景はあちこちで見られた。もちろん、性的な関係が伴った。

善子は戦後落ち着いてから、団にいた男と2人になったとき、こう言われた。「ロスケにやらせたくらいなら、俺にもやらせてくれよ」。

1980年ごろ、遺族会の慰霊祭があり、酒席が終盤に差し掛かったころ、遺族会長の藤井三郎が善子に言った。「おまえはロモーズ(ソ連兵)が好きやったで」。同じ場にいた元団員の男も三郎の卑猥な口ぶりを真似してみせた。善子は抗議したが、三郎は謝らなかった。

満蒙開拓団の募集では、分村が行われたことがよく知られている。村長が決めたら、ほぼ強制的に村の一部の人たちが行かされる。黒川村も分村を行い、黒川村だけじゃなく近くの村からも集められた。村長の右腕として取り仕切った藤井軍平は、戦後、満州移民として国策の「盾」に使われたと強調しつつ、自分たちが団の娘を「盾」に使ったことは一切触れていない。

善子は、熊本県の来民(くたみ)開拓団の男たちにあったことがある。元団員の手記を手渡されて読むと、そこには開拓団の女たちが九州人として満州で辱めをうけることなく、日本国民のために自滅。大和撫子として満州で戦死してくれたことを誇りに思いたい、と書かれていた。それは善子を突き刺した。かたや女が犯されることなく死んだことを誇りに思うと讃える。かたや自分はみんなが生きるために犠牲になって「汚れて」帰って来た。私は大和撫子ではなかったのか。

結局、ロシア語が堪能でソ連兵との「接待」について交渉をした「辻」という人物と、元衛生兵と称していたアサヒは、元々性に関する仕事をしていて、南下してきたのだろう(両方とも開拓団員ではない)。

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2022年05月24日

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