【感想・ネタバレ】今を生きる思想 ハンナ・アレント 全体主義という悪夢のレビュー

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Posted by ブクログ

ネタバレ

コンセプトがはっきりしており、分量も短くて読みやすかった。もちろん、あとがきにも書かれているように、ある思想の概要を可能な限りコンパクトにまとめるという作業は非常に困難だろうし、これだけを読んでわかったつもりになってはいけないのだろうとは思った。
全体主義について、何となくの言葉のイメージはもっているつもりでも、暴政や権威主義体制といった他の体制との違いや、全体主義の中にいる人はどのような状態になるか、等の新たな発見があった。一方で、共通の感覚が失われる、リアリティを信じられず、想像力、一貫した論理を信じる、といった、全体主義がもたらす状態は、少しだけでも理解できたようにも思うが、では、本当に人間がそうした状態に陥ってしまうのか、そこに至るプロセスをもっと詳しく知りたいようにも感じた。
また、全体主義への抵抗手段として「事実の真理」があり、ただそれを証明する段階で、結局のところ多数決等の脆弱性のある方法によらなければならないというのも、イメージがついたように思った。さらに、アレントは歴史学や人文系の学問にこそ価値を見出していたという。確かに、「事実」だけを告げられるのか、そこに(もちろん虚偽ではない)ある程度の物語性というか背景も含めた語られ方というか、そうったものが必要となるようにも思うが、そのような理解で良いのだろうか。
最初に書いたように本シリーズ「現代新書100」のコンセプトはわかりやすく、ぜひ読んで教養を深めたい、との気持ちにさせてくれる。一方、個人的には、「なぜその思想がいま必要とされるのか」の観点はなくても良く、その分もっとその思想そのもの等について紙面を割いてほしいとの感想をもった。
なぜなら、その思想に触れて、それを現代のあるいは現実の世界にどう還元していくかは、読み手の判断によるべきと考えた。また、それは言い換えれば、「今こそ読まれるべき」でなければ、見過ごされてよい思想があるという発想は、かえって危険ではないかと私は思った。もちろん、現代にどう応用できるかについても書かれていればもっとより理解できるとは、思うのだけれども。
さらに言えば、読書は、読まれる「べき」という視点ではなくて、読みたいものを読まなければいけないとも思う。

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2022年12月04日

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