あらすじ
世界の時間が止まるとき、二人の旅が始まる。
麦野カヤトは、高校の修学旅行で北海道の函館を訪れていた。
内気で友達のいない彼にとって、クラスメイトたちとの旅行は苦痛でしかない。
それでも周りに合わせてグループ行動を続けていた、そのとき。
世界の時が止まった。
まるで神様が停止ボタンを押したみたいに、通行人も、車も、鳥も、自分以外のあらゆるものが静止した。
喧騒が消え、静寂だけが支配する街のなか、
動ける人間は麦野カヤトただ一人……かと思いきや、もう一人いた。
地元の不良少女・井熊あきら。
「あんま舐めたこと言ってたらぶっ殺すかんな」
口調も性格もキツい彼女は、麦野とは正反対のタイプ。
とはいえ、この状況では自分たち以外に動ける者がいない。やがて二人は行動を共にする。
「琥珀の世界」ーー数日前に死んだ麦野の叔父が、そう呟いていたことを麦野は思い出す。
叔父の言葉は、世界の時が止まったことに関係しているかもしれない。
そう思い立った二人は、時を動かす手がかりを求めて、叔父の家がある東京を目指す。
時が止まった世界のなか、二人きりの旅が始まった。
※「ガ報」付き!
※この作品は底本と同じクオリティのカラーイラスト、モノクロの挿絵イラストが収録されています。
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Posted by ブクログ
函館に訪れた修学旅行中に時間が止まってしまうという冒頭に一気に引き込まれました。明日がやってくることの恐怖や、漠然とした不安が募る未来への拒否感――鬱屈した感情がこれでもかと描かれた小説でした。後ろ向きなことに真っ直ぐな麦野君の心情に共感しました。
東京にある暮彦おじさんの家にヒントがあるはずだと信じて、麦野君とヒロインである井熊ちゃんは二人で旅をする決意をする。
何もかもが停止した世界で、誰かの目を気にすることもなく、好きなように過ごす。時間が流れない世界は不便だけど、自由だった。その生活は「明日が来なければいい」と内心では思っている二人にとって天国にも等しい時間だった。
未来に希望を抱かなければ、いつまでも「このまま」でいられる。退廃的なのに甘美なその事実は、あまりにも魅力的で――。
最初はぎこちない会話を繰り広げていた麦野君と井熊ちゃんだったけど、旅を共にしているうちに心を開いていき、自分の抱えているトラウマや悩みまで話すようになる。そんな二人の関係性の変化を楽しんでみることができました。
私も会社に行くのが嫌で仕方がなかった時期があるので、とても深く心に刺さる物語でした。面白かったです。