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Posted by ブクログ
他者危害原則(Harm principle)の出典として有名な言わずと知れた名著。自由論についてゼロベースで論理的に述べられているのが特徴。以下に、本書を実際に読んで印象的だった点を三つ述べる。
・ミルの自由侵害の範囲は法的刑罰のみを指していない。そこには政治的抑圧のみならず社会的専制、つまり世論による圧力のようなものも含んでいる。ミルによると、支配的な意見や感情の専制は政治的抑圧と比較し逃れる手段が少なく、生活の隅々に深く入り込んで魂それ自体を奴隷化する恐れがあり、これらからの防護は人間生活の健全な状態にとって必要不可欠である、という。特に「協調」が重要視されるアジアにおいては社会的専制の作用は頻繁に観察されるが、そこには個人的選好の押しつけや非寛容的態度も多く含まれ、それを問題視すらしていないようである。言論の自由として許容されるべきもの、社会的専制からの保護を目的として許容されるべきでないもの、これらの境界について今一度考える必要があるように感じられる。
・思想と討論の自由および他者危害原則に共通して存在するミルの考えとして、自己の徹底的な相対視の姿勢が存在している。人は概して自らの意見や感情を絶対視し、他者にも適応可能であると考えがちであるが、ミルはその点で徹底的に謙虚であり、この姿勢が自由への考え方に繋がっている。一方で現代社会では、賭博、薬物などの依存症に関してパターナリスティックな姿勢を正当とする考えが主流であり、この点ではこれらの自由をも守られるべきとするミルの主張はやや極端なものに感じられる。もちろんいずれの意見も妥当性を持つが、個人的意見としては、ミルは個人の判断力をやや過剰評価しているように見られる。どれだけの人が合理的で妥当な判断をして日々過ごしているだろうか。
・第三章の「幸福の一要素としての個性について」は突然自己啓発のような様相を帯びる。しかも自己啓発としては極めて現代的でかつ説得力があり洗練されている。この章だけを自己啓発本として出版しても、近年ブームとなっている自己啓発本よりよほど読む価値のあるものとなるだろう。