【感想・ネタバレ】逃げるが勝ち 脱走犯たちの告白(小学館新書)のレビュー

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Posted by ブクログ

ネタバレ

なんか、やはり、とびぬけた人というのは居るんだな。逃げるってすごい。やっぱり、平均から離れたところはある。

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2022年09月09日

Posted by ブクログ

ネタバレ

逃げるが勝ち
~脱走犯たちの告白

著者:高橋ユキ
発行:2022年6月6日
小学館新書
「Slow News」(調査報道サイト)での連載を加筆修正

タイトルからは「逃げるが勝ち」を人生訓にしているエッセイのように思えてしまうが、サブタイトルにあるように、3人の脱走犯たちを中心に彼らの告白文や手記などに加え、彼らが逃走していた街の人々への取材で構成されたノンフィクション。記憶にも新しい2人の逃走劇については、著者自らが潜伏先だった街で取材したり、逃走犯に直接書いてもらったりした文などで構成。もう1人は「昭和の脱走王」について、資料などをもとにルポしている。また、最後のまとめの章では短くいろいろな脱走者、逃走者について書いているが、日産のカルロス・ゴーンも登場する。

1.尾道水道を泳いで渡った脱走犯

〝塀のない刑務所〟という言葉をよく聞く。日本には市原刑務所(千葉県)、網走刑務所・二見ケ岡農場など4か所あり、1955年から設置されていったという。
その一つ、松山刑務所大井造船作業所は1961年に開所した。民間造船所「新来島どっく大西工場」内にあり、敷地内にある5階建ての「友愛寮」で共同生活をしながら仕事場に通う。寮の部屋に鍵や鉄格子はない。初犯で刑期が10年未満、概ね45歳以下で協調性がある模範的な受刑者というような条件を満たした受刑者ばかり。もちろん、松山刑務所本体には普通の刑務所施設があり、他の受刑者たちが入っている。

2018年4月、ここから逃走し、車を盗んで離党の向島に入り、何軒かの空き家に2週間ほど潜伏。今度は尾道水道を泳いで渡って本州へと入った。距離は200メートルしかなかったが、尾道水道の潮の流れが速く、流され流されして1時間。最後は死を覚悟して仰向けに浮かんでいるだけだった。やっとのことで本州側に上陸したが、人家の屋根裏に入るなどそこからまた潜伏生活が始まる。結局、23日の逃亡生活ののち、捕まった。

本を読んでいると、この事件のこと、段々思い出してくる。

残りの刑期も長くなく、自由がある程度ある施設で過ごしていたのに、なぜ脱走したのか。不満があったと彼は言う。それは、一般の刑務所にありがちな人権侵害的なことよりも、受刑者でつくる自治組織の幹部との折り合いが悪い、というようなレベルの違う部分での不満だった。その反省から、今は週末だけ松山刑務所に戻し、個室で過ごさせているという。これも感覚的に一般人にはおもしろい話。

著者が潜伏先だった向島を訪ねて住民たちに話を聞くと、彼らは逃走犯に好意的だった。みんな「野宮くん」と親しげ。逆に「どうしてるの?」と聞かれたりもしたそうだ。逃げているとのニュースが流れていたとき、人々は心配したという。「お腹がすいているのではないか?出てくればご飯食べさせてあげるのに」と。

ある住民は、逃走のニュースが流れた日、子供が小学校に遅刻しそうになって車で送ったところ、検問で渋滞してかなり遅刻してしまったという。校門に駆け込んだところ、NHKかどこかが取材していて、そのニュース番組では「小学生が怯えて登校しています」と言っていたので、家族みんなで大笑いしたという。ただ遅刻して怒られそうだっただけなのに、と。

2.富田林警察署の面会室を破って逃げた犯人

弁護士との接見後、面会室のプラスチックの一部を剥がしてその隙間から逃げ出した容疑者。彼は四国を自転車で回り、「日本一周中」のプレートをつけ、出会った人たちとも気軽に記念撮影をしていた。これは記憶に新しい。脱走したのは、2018年8月だった。

弁護士との接見時、警察官は席を外す。だから、接見が終わって弁護士が帰り、その後、容疑者が逃走しても1時間半以上、気づかなかった。大失態だったが、担当の警察官(巡査部長)は、内規で禁止されているスマホを持ち込み、エロ動画を見ていたとのこと。

四国からしまなみ海道を渡って広島県、そして山口県へと入り、周防大島町で過ごす。なんども警察に事情を聞かれるなどしたが、キャンプしながら自転車で日本一周していると普通に答え、なにも疑われずに捕まることもなかった。逆に暗いので気をつけてくださいと警察官から心配の声を掛けられることもあったという。最後は、周南市で万引きをして捕まり、激しく抵抗したために逃走犯であることがばれた。捕まえた万引きGメンは、5時の仕事終わりまであと5分だった。

大阪のある建設会社が、有力な情報提供者に300万円の懸賞金を出した。すると、LINEであっという間にヤクザ界に情報が広まり、ヤクザがどっと動き出したという(アサヒ芸能)。

彼は強制性交等罪など凶悪犯だった。しかし、公判では強制性交罪などわいせつ系については自らの犯行を否定し、「ヨダソウマ」という人物がやったと主張した。ひっくり返すと「マ、ウソダヨ」になるとの報道もあった。

彼が滞在したところは、サイクリストの聖地になった。彼が万引きしたものや購入したものが売れたという。タコ飯を万引きしたというテレビでの情報があり、タコ飯が結構売れた。逮捕時に所持金が数百円しかなかったのに、それでも買いたかったものとして150円の「鳩子てんぷら」も売れたという。どちらも逮捕直前に宿泊していた道の駅「上関海峡」。

3.昭和の脱獄王

白鳥由栄(よしえ)は、計4回、逃げている。網走刑務所の旧舎を移築して再現した「博物館 網走監獄」にいくと、「五翼放射状平屋舎房」があり、そのなかの一つに案内があったのを覚えている。この本を読むと、それが脱獄王・白鳥が収監され、逃げ出した部屋だということが分かる。

彼は、非常に運動神経がいいことに加え、〝特異体質〟であった。手足の裏の皮膚を伸縮させて吸盤のようにできること、そして、体中の関節を自由に外すことができること。首さえ出入りできる穴があれば、猫のようにそこから全身を出すことができた。20センチ×40センチの監視口からも脱走した。彼を取材したジャーナリストによると、松の木の根っこのようなごつごつした肩をしていたらしいが、首を回すと音がして、だらーんと肩が外れるという。痛くないと本人。クッと自分で戻す。

青森刑務所柳町支所(公判が開かれる前)、秋田刑務所、網走刑務所、札幌刑務所から逃げ出した。

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欧米では、保釈を捜査側が利用することもある。保釈中に尾行し、どこでどういう証拠隠滅をするのかを調べ、新たな証拠をつかむという、いわばチャンスとして利用することがある。

また、欧米では保釈保証会社がビジネスとして成り立っている。保釈される数が多いので成り立つらしい。しかし、保釈金を出している会社としては、彼らが逃走しないように監視をする。

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2023年02月12日

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