あらすじ
デジタル化の波の中で古くなった社会制度やそれを支える哲学をデジタル時代に適したものに根本から見直した方がいいのではないか? 20世紀に大成功した近代工業モデルを修正しながらデジタル経済に合わせてきたが、いよいよ矛盾が大きくなりすぎているのではないか? 過去の成功体験にこだわっていると単に落伍してしまうだけでなく、格差の拡大や監視社会の暴走などの形で不幸な未来につながってしまうのではないか? 明治維新の時に、単に蒸気船や電信を受け入れるだけでなく、政治体制から法律、芸術や言語にいたるまで造り直したように、今回も仕組みを全面的に再構築しないといけないのではないか? それは結局のところ、新しい文明を構築するということではないか?
トレーサビリティ、ネットワーク外部性、ゼロマージナルコスト、複雑系――。これらは、近代工業が生み出した、「大量生産品の排他的所有権を匿名の大衆に市場で販売(金銭と交換)する」モデルから「モノやサービスから得られる便益へのアクセス(利用)権を登録された継続ユーザーのニーズに合わせて付与する」モデルへと移行させる原動力となっている。本書ではそのようなモデルの普及の結果として、個人(法人含む)の交換をベースとした市場経済に替わって、個人が社会に貢献し社会から受け取る、「持ち寄り経済圏」が台頭し 、その経済メカニズムに適合したガバナンスメカニズムの構築が重要になることを論じる。
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Posted by ブクログ
デジタル技術が広く生活に浸透した今日、我々は近代工業文明に代わり「サイバー文明」とも呼べる時代に足を踏み入れている。では、改めて文明論の背景にある哲学まで遡り、今後あるべき経済の姿を描くべきではないか、暗に従来の文明における前提を引き摺り、「サイバー文明」を語るが故に様々な矛盾が生じているのではないか、という問題意識を起点にした一冊。
特にキーとなる技術の説明等も記載されており、特に認識相違なく読み進めることができたが、やや抽象度の高い情報処理を求められるため、具体論で理解が及ばない点も多分にあった。自分なりに本書をサマライズすると以下の通り。
・ネットワーク外部性により、データは集合・結合することで更なるユーザーの利便性をもたらす(例:SNS)
・様々な技術の相互作用により、デジタル技術が併せ持つ「ゼロマージナルコスト」「トレーサビリティ」等も特徴も相まって、データ集積の傾向は更に加速している
・一方、プラットフォーマーによる、ユーザーの利益と相反する行動(例:広告主向けの個人データ提供)が欧州を中心に問題視され始め、本来集合・結合によって大きな価値をもたらすデータが、個人情報保護の名のもと、分断され始めようとしている
・データの価値最大化という観点では、中国のように厳密な国家統制を敷き、国民のデータを管理する方法も一定親和性があるように考えられるが、独裁政権によるデータコントロールは別の問題を生む可能性も多分にあり、是認しにくい
・では、西洋を中心とする個人主義といきすぎた統制を敷く近隣国家の間でどのようなデジタル経済を描けばよいのか。そこで注目したのが、東洋的な倫理観である
・西洋と比較し、相対的に利他主義である東洋において、例えば他者の利便性のためにデータを提供する(例:医療データ)という考え方を持つことはできないだろうか。個人主義であり、データ使用に許諾を前提とする西洋と異なる考え方を用いることで、従来の近代工業文明の前提とアラインしつつ、現実に即した「文明論」を論じることができるのではないか
・データを取扱い、ユーザーに価値を創出する主体として、今後もプラットフォーマーの存在感は強さを維持すると考えられる。一方、前述の通り、プラットフォーマーは様々な問題を指摘されている
・では、今後どうするべきか。「許諾」に基づくデータ開示ではなく、「信頼」に基づくデータ提供、ひいては社会への価値貢献(及び価値貢献している実感)を実現できるガバナンスの設計ブロックチェーン等の技術開発/新たなビジネスモデル開発等が必要ではないか
・「データ提供による他者への貢献」という意識を持ち、「信頼できる主体にデータを開示する」ことにより、信頼を持つプレイヤーひいてはプラットフォームに「データが集積」され、社会に対する価値が最大化される。改めてデジタル技術の特徴/利点および経済の在り方を再考し、東洋的な倫理観(利他主義等)を援用することで、無理なくデータ活用を進められるのではないか