【感想・ネタバレ】おいしいごはんが食べられますようにのレビュー

とある職場で働く人達が何を食べ・何を考えて生きているのかを、各人物の視点から紐解いていく作品。
主な登場人物は、
・食や仕事に対して俯瞰した立場で生きる二谷。
・仕事のできはイマイチだが、手作りのお菓子を持参して周囲の好感を集める芦川。
・仕事をしっかりこなす分、芦川の仕事ぶりに不満がある押尾
の3人。

構図的に芦川と押尾の女の闘いかと思うかもしれませんが、ポイントは二谷の視点から物語が始まることです。二谷の視点から見ることで彼女たちのそれぞれの考え方を理解できますし、だからこそ人間関係の難しさを実感します。同時に、読み進めると二谷の葛藤や悩みが露見していき、胸が締め付けられます。

ちなみに書店員の私は押尾派の人間です。
彼女が、毎日定時で帰る“最強の働き方”をしている人に対し発した言葉。
「最強の働き方をしてるのが、むかつくんだと思ってたんですけど、もしかして、うらやましいんですかね。なんかうらやましいのとは違うんですけど。ああはなりたくないって、やっぱり思うから。むかつくんだけど、嫌いってのとはちょっと違うし」
むかつくけれど嫌いではないし、羨ましいけれどああはなりたくない。そんな彼女の心情に共感しました。

「誰でもみんな自分の働き方が正しいと思ってる」。その人にとっての正しさを見つめ直すきっかけになる作品です。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

読んでいて「うわぁ…」と思ってしまって重苦しい気持ちになるんだけど、めちゃくちゃリアルで「この感じ、身に覚えがあるぞ」と思う部分も多くて、しんどいのに何故か面白い、まじですごい話だなと思いました。
こういうことってあるよね、と簡単に要約して別の言葉で表現もできるんだろうけど、この”なんとも言えない、言い表せない感覚・感情”は物語を通じてでしか表現できないと思うし、物語を読むことでしか体験できないんだろうなと思う。

”お互いさま”ってどこまで成り立つんでしょうか。


“体調が悪いなら帰るべきで、元気な人が仕事をすればいいと言うけれど、それって限られた回数で、お互いさまの時だけ頷けるルールのはずだ。結局我慢する人とできる人とで世界がまわっていく。”


少なくとも、芦川さんの作ってくるお菓子は”あったら嬉しい”けど”必須”ではない。”必須”の部分(仕事)で誰かが困っている時、大変な時、”余剰”の部分(お菓子)でそれを補うことはできない。”必須”の部分での欠乏は、そこを埋め合わせることでしか”お互いさま”にはなり得ないんじゃないか、と思いました。数回のこととか、いつもはそうじゃない人が珍しく、とかならまだしも。「お菓子を作る暇があったら、」と思ってしまう。


“みんながみんな、自分のしたいことだけ、無理なくできることだけ、心地いいことだけを選んで生きて、うまくいくわけがない。したくないことも誰かがしないと、しんどくても誰かがしないと、仕事はまわらない。仕事がまわらなかったら会社はつぶれる。そんな会社つぶれたらいいというのは思考停止がすぎる。そう思う。けれど、頭が痛いので帰ります、と当たり前に言ってのける芦川さんの、顔色の悪さは真実だとも思う。”


やれることをやる、得意・苦手で分担するって理想だけど、結果的に誰かに負担が偏ってしまったり、できる人が抱えすぎてしまったりということになるんだろうと思う。能力がその人のバックグラウンドに紐づく部分もあることを踏まえると完全なる能力主義も考えものだけど、こういう状況を望んでいるわけでもない。それに、その得意・苦手がもうどうしようもないものなのか、まだ努力の余地があるものなのかもわからない。なんだかなぁ、と思う。
ここの部分、したいことだけしてたら世界は回らないけど、できないと言う人が嘘を言っているわけではないんだよなというどうしようもなさを表しているんだけど、”当たり前に””言ってのける”という若干棘を含んだ表現になっていて、どうしようもなさをわかってる、けどイラついてしまうみたいな複雑な心境が感じられて好き。

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2024年06月03日

Posted by ブクログ

ネタバレ

初めて読む作家さんでしたが文章が読みやすくって、お話もどこに向かって行くんだろうと先が気になって一気読みしてしまいました。

芦川さんみたいな手作りお菓子を職場に持ってくる人いたら私も嫌かもと思ってしまいました。二谷と同じように「美味しい」って言って喜んで食べなきゃいけない社内の雰囲気、同調圧力的なものがめっちゃ嫌なんだと思う。甘いもの苦手だから遠慮しますって言っても、高頻度で配られるお菓子と美味しいって周りでワイワイやられるのも嫌でしょって思っちゃって。善意って必ずしも全ての人に善意として受け取られるとは限らない。けど、善意を善意として受け取れない人の方が責められることも往々にしてあるし。
でも、読んでて、あれ?こう思う私が性格悪いのかも?ってなりました笑。難しい…。なので結局、二谷のように表面上は美味しいって言いながら喜ぶフリするだろうな私、とかも思う。そして、そういう自分にうんざりもする…。とか、自分だったらに紐付けて延々考えさせられるシーンが多かったな。

二谷も心の中と外が違いすぎて何で??ってなるけど(このまま結婚しそうなところとか)、なんか嫌いでもなかった。不思議。
押尾さんは次の会社でこの先も強く生きてって欲しいですね。

「弱いものが勝つ」実際に自分の職場で聞いた他所の出来事なんかを思い出したりして、確かにそういう時代かも?ってなりました。自分の日常でもふと出会ってしまいそうな場面の数々が、私的には非常にホラーでしたし、色々ぐるぐる考えてしまう感じが凄く好みな作品でした。

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2024年06月08日

Posted by ブクログ

ネタバレ

ずっと自分の中で薄くあったモヤモヤを浮き彫りにしてくれた。
二谷の言うことが分かるとこは分かる。食事って食べる以外の労力がものすごく多い場合があって、補給だけで終わらせられない場合がある。それが面倒臭いっていうのはものすごく分かるけど、それを表面に出すとコミュニケーションの怠慢になってしまう気もするから希望通りにすることはない。
自分の中で気付きがあってよかった。
二谷ストレスカップラーメンで将来おデブちゃんになりそう。押尾の清潔感失ったらやばそうって言葉どういう意味なのかな。

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2024年05月19日

Posted by ブクログ

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高瀬さんの本はエグい視点ですらすら進むので理解と受け入れがスムーズにできない けどとても面白いし文章が素直で好き

「わたしたちは助け合う能力をなくしていってると思うんですよね。昔、多分持っていたものを手放していってる。その方が生きやすいから。成長として。誰かと食べるごはんより、一人で食べるごはんがおいしいのも、そのひとつで。力強く生きていくために、みんなで食べるごはんがおいしいって感じる能力は、必要じゃない気がして」

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2024年05月19日

Posted by ブクログ

ネタバレ

押尾・二谷派であることは間違いない。
朝は食パンと牛乳とヨーグルトで、決まったルーチンとして好きな物を食べる。意図的に判断の数を減らしてる。昼食なんてとくに、血糖値が上がりすぎて眠たくならない程度に、胃に入ってエネルギーになればいいと。ただ、夜だけは、心許せる人と日常を楽しみたいと、「ご飯のおいしさ」を感じたいという気持ちはある。食での繋がりが持てる人は本当に素敵だなと思う。好きな人が自分の「存在」と日常の中心にある「食がおいしい」ということで幸せになってるところを見ているのが幸せなのかもしれない。
最後の二谷の気持ちはそういう解釈なら理解できる。
潜在的に惚れてる人(=芦川)が好きな「食」を、二谷は理解できないけど、それが容赦なくかわいい顔を作ってくれるなら、二谷はそれでもいいんじゃないかと。
タイトルの「おいしいごはんが食べられますように」はたしかに押尾の二谷に対する皮肉めいたものに聞こえる。
押尾は二谷が好きなだけじゃなくて、良き理解者なのかなと。
ただ、二谷の食に対する興味は行き過ぎ感がある。。

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2024年05月19日

Posted by ブクログ

ネタバレ

芥川賞だし、タイトルと表紙から想像するようなほっこり作品じゃないんだろうなー、と思いながら読み始めた。
やはりほっこりではなかった。でも面白かった!
仕事に対するスタンスや、食べることについてのスタンスはまさに人それぞれなんだなと思った。職場で感じる不公平感(自分が常に被害者だと言いたいわけではなく、時には加害者だったりもするのだが)や、食生活への干渉など、これまで職場で感じた様々なモヤモヤが思い出されて、もちろん共感できないところもあるけど、「よく言ってくれた!」と思うところも多々あった。3人について、それぞれ共感できるところと、できないところがあったが、押尾の退職の挨拶には、私は拍手したい気分だった。

本作の視点は二谷と押尾だが、二谷目線の時は「二谷」と三人称(でも他の登場人物はさんづけ)、押尾目線の時は「わたし」。この違いはなんなんだろう。2人はいつから付き合っているのかなど(いじわるしよう、と提案された時には既に付き合っていたのか?)、時系列がよくわからないところもあった。
はじめにお菓子を捨てていたのは、誰なんだろう。

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2024年05月16日

Posted by ブクログ

ネタバレ

芦川さんのような人、いるいる!その人に対してずっとなんかモヤモヤしてて、「自分って性格悪いなぁ」なんて落ち込んだりもした。

弱々しさの中に、だから守られて当然、といったふてぶてしさがある

の表現に納得。自分がモヤッてた部分を明確に表現してくれた。

本の中に出てくるパートのおばちゃん達の気持ちが分かる年齢になった。年が一回り以上離れてると芦川さんみたいな子も可愛らしく見えてくるから不思議。
ただ、おばちゃん達の中に正社員という芦川さんと同じ立場の人がいたらまた展開が違ったのかも。
結局ニ谷以外にお菓子捨ててたのって誰だったんでしょうね?明かされなかったところがまたゾワゾワする。

芦川さん視点の話がなかったのが、作者からも芦川さんがイジワルされてる感じがして良かった。

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2024年06月08日

Posted by ブクログ

ネタバレ

美味しそうな料理がたくさん出てきそうなタイトルだなと思って読んだら予想に反して気持ち悪い内容で驚いた。ギャップがすごい。

主人公の二谷は食べることが嫌い。同じ職場の歳は一つ上だけど一年後輩の可愛いか弱い守ってあげたくなる系の芦川さん。そんな芦川さんのことが嫌いな押尾さん。

二谷が周りに流されて芦川さんと寝たり押尾さんとは寝なかったり、芦川さんの手作りお菓子をぐちゃぐちゃにして捨てたり、押尾さんとは2人で飲みに行ったりする。職場の人たちも二谷と芦川さんをくっつけようとしてくる雰囲気を出してくる。全部気持ち悪い。

芦川さんのお菓子を捨ててわざわざ本人の机に置いた犯人を吊し上げようとしてくる職場も気持ち悪いし、押尾さんがやったんでしょ?みたいな空気になるのも気持ち悪い。押尾さん、そんな職場さっさと辞めて正解だよ。

学級会()が開かられた日に潰れたお菓子を机に置いた犯人が二谷なのも怖い。押尾さんも、へー、ぐらいな感じで終わってるのも怖い。

ラストで芦川さんと二谷の結婚の話がうっすら出てるのも怖い。

芦川さんの守ってあげたくなる無理させられない良い人みたいなのも嫌いだし、二谷のはっきり言わないところも嫌いだし、押尾さんの最後の挨拶の地雷感もそれはどうなの?と思う。

初めに芦川さんの飲みかけのペットボトルを勝手に飲む藤にドン引きして、しかもそれを知った芦川さんが平気な顔してペットボトルに口をつけたところで思わずウェッと声が出た。最後には気持ち悪さが全部吹っ飛ぶような終わりに持っていくのかなと思ったけど、気持ち悪いまま終わった。

気持ち悪いけど、気分が悪くなるのとはまたちょっと違う。読み返したいとは思わないけど、この気持ち悪さはクセになりそう。タイトルの「おいしいごはんが食べられますように」はきっと芦川さんの言葉なんだと気づいて読後までゾッとした。

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2024年05月31日

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