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Posted by ブクログ
年が明け、最初に読んだのがこの本。昨年の最後に読んだのが同じ作家のトム・マクマートリー四部作シリーズ完結編。そちらはスポ根と胸アツとリーガルミステリーが一緒になったような作品だったが、こちらはスポーツ小説とホームドラマとファンタジーが一緒になったようなノンジャンル小説。まさにジャンルの垣根を飛び越えても書きたい物語が胸の中に燃え上がっているような作家なのだろう。どの作品にも作家のどうしても書きたいものとそこへの情熱が込められていて、好ましいのだ。
作家とて商売。しかしそれによって生活しなければならない人生の資源であろう。才能を熟練の武器のように使いこなせる作家もいれば、どうしても書きたい物語を心から絞り出す作家もいる。ロバート・ベイリーは後者の人なのだ。どのキャラクターの中にもこの作家の真実が込められていて、別の人生を造形してゆく。
本書は珍しくゴルフ小説である。ベイリーという作家がアメフトではなく、ゴルフにこんなにも詳しく情熱を傾けてきた人だとはこの作品に触れるまで全く知らなかった。ゴルフと言ってもプロツアーのレベルの物語であり、主人公の不思議体験の中では、アーノルド・パーマーやらジャック・ニクラウスが登場する。ゴルフというスポーツは魅力的なゲームなので、技術やスコアは別として今もぼくを強く惹きつける。
そうしたスポーツを題材にして、ある家族の破滅的状況、自殺を決意した主人公、そして昨日死んだ親友のゴルファーという奇妙なスタート地点を読者はいきなり与えられる。そこから語られる四つのゴルフ・レッスン。一人称で綴られるのもこの作家としては初めてのことである。
前のマクマートリー四部作シリーズで、この作家の神髄を楽しめた読者にそのままストレートに受け入れられるものかどうかの自信はないが、この作家への愛着はこの作品によってより深まるかもしれない。作者のあとがきで涙が滲みそうになる作品など、そうないことだろう。
何が読みたいかによって作者の読書後の評価や感想は異なるものと思う。ぼくには少なくとも、この作家のコアなところに近づけたとの思いが、何よりの収穫であった気がしてならない。