あらすじ
琵琶湖が一望に見下される泰門庵の庵主・梵仙は、眉涼しく筋骨たくましい青年であった。尼僧の舜海も、画学生の阿井子も、祗園の美しい芸子すら、身を投げだして悔のない魅力をそなえていた。しかし、法燈のもとの愛欲の業は、五条の親分の怒りを誘い、梵仙の法衣もまた風を孕む。厳しい戒律に反抗しつづける梵仙。彼によって女の灯を点された舜海尼。ここに生々しい人生図があった。……
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婆子焼庵
タイトルをそのままとらえれば、仏が衆生を済度するために様々な形態で出現する時の姿を、登場人物に仮託していると思われる。出家しても俗なものから抜け出せないのは、男女ともに若い設定であるので、さもありなんと思わせられる。
通俗小説として切り捨てるには、作品の後半に出てくる婆子焼庵という言葉が意味深長に響いてくる。
当時、勝新太郎主演で映画化されたそうなので、いつかそちらも見てみたい。
また、随所に作者の博覧強記が披露されていて、天台のこと、仏教史のこと、寺門経営の内幕から近代絵画や河内・大阪文化に渡るまで、小説の合間に挿入される場面では、物語の本筋を忘れるほど興味深い。
特に尼寺の後継者問題の暴露話では、このようなモデルがいたのかもしれないと想像させるほど、リアルで具体的である。現代の寺院や檀家との関係、本山と地域との関係を窺い知ることのできる一つの生々しい記録のようにも、門外漢には読めた。