尾崎伊万里のレビュー一覧

  • ヤエブキ機関 千万丈塔踏破録2

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    第1巻に続き情報量の嵐が凄まじい…!どうしたらここまで細かく周密に設定出来るのか…。平安時代や日本古代の様式・術式を底面にしているとはいえ
    第1巻でも思ったものだけど、この設定量の嵐だけで好評価をしたくなりますよ。勿論、設定だけでなく登場人物の心情描写や話の流れも素晴らしいからこそ、引き続き高評価しているのだけど


    前巻ラストにて驚愕の糾弾が行われたのだから、続く2巻で描かれるのは世界の裏側であり天茜・碧橙と祭花の対立だと思われた。祭花が突き付けたあの言葉こそが真実なのだろうと
    なのに祭花は前巻にて各所暴走していた堕竜講と同じように、誤った知識から正義を騙っていたなんてね。流石にこの辺りから更に語られた世界の真実には驚かされたというか、前巻にて提示された情報を飲み下しきれていなかったからこそ、読者たる私も誤った知識に迷い込んでいたのだなと気付かされましたよ

    前巻にて祭花は八重の術師と接して、それまで知らなかった世の在り方について知った筈だった。その上で水仙香に告げられた裏側により一般の者より遥か詳しく世界の成り立ちを知った筈だった
    そんな彼女をして驚愕の連続となる綾水蓮が語る真実は人民に隠された世の在り方であると同時に、これを知ったならば世界を護る側に回れと促されているかのよう

    そのような印象を抱いてしまうのも真実開陳と並行して描かれる〈野辺ノ墨染〉討滅があまりに絶望的な戦いである為だね。絶望的というのは“勝てない”という意味ではなく、勝てるがその為の被害が甚大過ぎる意味
    〈野辺ノ墨染〉は超級だから別格として、いつ滅んでも可怪しくない八千穂国に襲い来る堕素は何としても防がねばならぬ。過程にて八重の術師に犠牲を強いながら
    そうした真実を知らず、虚飾に塗りたくられた犠牲の上に天茜達こそ立っていると糾弾した祭花はとんだ道化に思えてくる。そこには国の上に立つ者達が民に真実を秘匿しているという背景も有るのだけど
    そりゃ、碧橙や綾水蓮が彼女に苛立ちを向けるのも当然だ。祭花が真実を知らなかったとしても、虚実に踊らされて真実知る者を糾弾した上で刃を向けたのだから

    本作の特徴となりえてくるのは主人公達が体制側、圧政を行う強者と第1巻では思え、同時に堕竜講が描かれる事で体制側こそ正しいという先入観を抱かされた点。ただ、更なる実態としては暴君に拠る圧政下でないと生き残れない世界情勢だったわけか
    守る為には民を虐げる事も反発を招く事も管理する事も必要となる。そうした必要悪の下にあの世界は成り立っている
    ただ、そうなってくると個人的な正義感において、天茜達の立場は正しいのか?という視点も生まれてしまう。祭花の疑念は絶えない。……だからこそ、天茜は自分を必要以上に悪を主張する事で祭花の追求を躱してしまったんだろうけど

    こうした遣り方って祭花をやり込める上では効果的かも知れないけど、もう少し卑近の問題、友人と思っていた者達の間に隠し事や陰謀が有ったという事実についてはアプローチが出来ていないんだよなぁ
    だから真実の開陳を終えても天茜達は祭花から信頼を取り戻せなかった。独りで動く彼女は水仙香の死に立ち会ってしまったし、彼女の遺書をより辛い形で受け取る羽目になった
    結局は天茜達ってまだ少年と評して良い年齢だからか、精神面が何処か未熟なんだよね。荒事は慣れていても人との向き合いに不慣れが見える
    だから年少者の面倒を年長者が見るのは当然かも知れず。まあ、その役をあの茨宮が担うのは意外が過ぎるけども!
    いやだって、茨宮って前巻終盤での出番で七堕出現の黒幕かと思わせる表現があり、今巻でも強力無比な実力者の印象が強かったのに良いにーちゃんみたいな振る舞いで3人の幼さを見守る様は本当に意外性が有りましたよ
    そのような兄君に守られているから天茜達はただの子供のようにはしゃいで、子供のように仲直りが出来たのだろうね

    この辺の描写からは八千穂国の真実じゃないけれど、少ない知識で思い込んでいたら正しい姿を見誤る、正しさを不知りたいならリスクを負ってでも近付いてみなければならない、なんて事を感じてしまったよ


    1巻にてテロリズムを制圧され、直剣と共に処分されたかと思われた銀木犀にまだ出番があるとは
    おまけに情報統制・記録処理が施されてテロの首謀者ですら無くなっていたのか。これ、有り難さより憤怒を覚えるような事案だよなぁ。確かにあの行為は過ちだったのかも知れないが、本気で取り組んだ事だけは事実で。首謀者の片方だけ首が晒されて自分は英雄扱いなんて納得できるものじゃない
    だから銀木犀が反発を覚えるのは当然で。なのにその反発こそ願われたものだなんて。ならば、余計に反発しなければならない、朝廷が期待した以上の功績を残す事に拠って

    他方でこれは朝廷の恐ろしさをより実感させるものでは有るね。体制に歯向かった者すら統治の道具と見做す、使い所が有るなら形を変えさせて使い続ける
    かといってある程度の真実を、急進的行動の過ちを知ってしまった銀木犀が再び朝廷に弓引く道なんて選べないわけで。「正しい改革という『復讐』」なんて凄いフレーズですよ

    そして一度点いてしまった火は簡単に消えたりせず
    秋蕊達の叛逆行為が始まって、状況など何も判らないだろうに、「無きものとされた臣民の力を示す好機だ」と奮い立つのは彼女なりに迷いを抜けた印象を覚えるね


    この巻で何度も問い掛けられるのは「そこまでして生きるのは正しいと言えるのか?」という点か
    同作者の別作品『エイティシックス』だと今にも滅ぼされそうな世界において、それでも生き続けようと、生きている限りは戦おうとする者達の矜持が描かれている
    その点は本作も同じくするけど、こちらはもう一歩踏み込んでいるね。生きる為に戦うのは正しいが、その戦いを数百年単位で続け且つ過中にて犠牲を許容するのはいつまで正しいと言えるのか?と

    綾水蓮が語る既に滅んだ世界、国の為に我が身を犠牲とするヤマブキ機関、それらは正しいと言えるだろう。けど、1000年掛けて世界を救う中で犠牲になる命の数は世界救済後に生き残った命やその後に生まれる命より多い可能性があるかもしれない。犠牲を許容し続けてまで生き足掻く事は本当に正しいと言えるのか?

    巻の後半で秋蕊達、夕清の従者等が叛逆行為を起こしたのはむしろ当然の成り行き
    朝廷は犠牲を少なくしようとしつつも、生じてしまう犠牲は当然のものと時には迷い無く切り捨てる。生き残った側は、犠牲を強いた側は“責務”という言葉で枷を課して満足して終わりと出来るかもしれないが、命を潰された側は到底納得など出来るわけもなく
    朝廷に与する彼らの叛逆は内部分裂などという言葉では表現しきれないもの。犠牲を強いてきた側に対する当然の反発。しかし、体制側はこれすらも制圧するのが正しくて

    この状況は本来なら手痛いしっぺ返しとなる事態。…だというのに、大地を統べる九重の皇家はこの事態をすら統治の一助としてしまうのか……!
    勿論、現場レベルで見れば何も問題なかったわけではない。ヤマブキ機関に犠牲が生じかけた虞はある。しかし、動くべき歯車が望ましく動く事で身内による叛逆テロはあまりにあっさりと制圧された。その上で皇家の印象操作に利用しているのだから恐ろしい
    当然のように九重やヤマブキ機関は犠牲を許容する。だからこそ、犠牲に拠って生じる次なる犠牲も許容し自らの統治に利用している。それを傲慢と呼ばずしてどう形容すれば良いのだろうね?


    今回も滅びかけた世界でどうにか彼らは当然の顔をして生き残った。その傲慢さが別の傲慢さによって潰されてしまうのか?それとも闇から来たる企みさえも潰し返すのか、新たな犠牲と為すのか
    先の展開が読めない、というよりこうした犠牲の物語が何処へ辿り着くか読めないだけに、最後まで付き合いたくなる作品ですよ!

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    2026年09月27日
  • ヤエブキ機関 千万丈塔踏破録1【電子特別版】

    Posted by ブクログ

    あまりの情報量の嵐に「すっご……!」って唸らされる。これが一昔前の厨二病作品みたいにオリジナル用語を山と盛った作品であれば嫌厭してしまうかも知れないけれど、作中で登場する用語の殆どは平安時代にルーツが見られるような、いわば何処かで聞いた覚えのある言葉を用いて作品世界観を構成している
    だから作中で使用される用語も「意味が判らん」ってなる事は殆無くて、有ったとしても自分の教養が低いから判らないのだと納得できる。いわば良い意味で受け付け易い難解な用語で氾濫している作品と言える

    また、用語だけでなくそもそもの世界観も凄まじいね
    作者が後書きで述べているように本作は平安時代✕サイバー✕霊術✕怪獣✕軌道エレベーターと要素まで氾濫を起こしている
    ただ、一つ一つはそこまで突飛な要素ではないし、平安時代なんて日本人には慣れ親しんだ時代かもしれないし。また、作中においても用語や世界観説明はしつつ、かといって説明を過度に行わず話の進行を優先している。そりゃ、こんな作品で何もかもを説明していたら、説明だけで本作の半分程度が費やされそうだし
    そのくらい本作の世界観は濃密。ぶっちゃけストーリーよりも世界観を先に制作したのではないかと勘繰ってしまうくらい

    そうして単語や世界観の氾濫に眼を回していた処でぶつかるのは更なる氾濫要素、踏破儀式だね
    いや、高度3万5800キロメートルもある塔を昇る儀式って何よ…って驚かされる。おまけに先代がどれだけ高所まで昇ろうと当代は第一階から踏破を行うとか本当に何……。幾ら開城や解析は引き継げるとはいえ、本当にたった一人の人間が35万8千階を踏破できるものなの…?ってなるよ…

    絶望的な儀式に挑まなければならない時代、踏破の為に国力を費やさねばならない状況、一般人には理解の及ばぬ踏破と破竜。そりゃ臣民の中に不公平感を抱き、朝廷へ反旗を翻す者が絶えないというのは納得できてしまう話

    そうした土台の下で紡がれる本作は英雄的に七堕や反逆者と闘う物語でありつつ、同時に体制側から描かれる物語にも思えたな


    天茜と碧橙はペアで踏破や破竜儀式に挑む高位の存在。また、尊き身分のお姫様にもタメ口で話しかけられるなど一般臣民とはあまりにかけ離れている。貴き立場である為か設定が氾濫した世界情勢に関し詳細な情報を持っている。他方で皇京に住まわぬ者達の暮らしには疎いようで
    二人と行動を共にする祭花は低い身分である為に儀式の詳細を知らなかったり状況の複雑さにも目を回す。けれど臣民達の暮らしを理解している、こうした物語に必須の質問役と言えるね

    その意味で両者の交流は互いの世界を知らぬ者同士の交流と言える。天茜達が知らぬ事を祭花は知っていて教えてくれたりして、祭花が知らぬ事を天茜達は教えてくれたりする
    それは一種の異文化交流であり、その中で天茜と祭花が惹かれ合う様なんて身分差恋愛の雰囲気すらある
    但し、両者共に体制に仕え体制を維持する側であるという点は変わらないんだよね。天茜は貴き身分から祭花を前にして不満を覚える臣民に理解を示す。けれど祭花は「わからなくていい」と切って捨てた。彼女よりも低い立場から世界に嘆きを覚え反抗する者を理解する必要はないと捨てた

    だからか、儀式の意味もいつ終わるかも判らない世界に対して反抗する様が描かれるのは体制に関われない知識階級となるのだろうね
    直剣は祭花と同じく一咲でありながら、祭花とは全く異なる悲劇を見て、祭花が見た悲劇は見て見ぬふりをした者
    都合の良い賢しさは往々にして体制側が示す正しさを疑う賢さでもある為に体制に迎合しない、結果的に体制には向かう刃となる

    ここで本作の隠れた特徴となるのは、直剣の叛逆が始まるまでに読者は体制側の英雄として活躍する天茜や碧橙の理路整然とした正しさを見せられ魅せられている点か。同時に彼らに賛同する一咲・祭花の姿を見ている。また、彼らの敵として登場する堕竜講がどれだけ視野が狭くて愚かで自分勝手かを見ている。彼らの目論見が潰される事こそ当然だという展開に同調していく
    おまけにクライマックス近くでは天茜が過去のトラウマを踏まえた上でボロボロになっても七堕を倒そうとし、いざピンチの場面で碧橙と祭花が格好良く助けに来るシーンが気持ちよく描かれている
    英雄物語としてあまりに美しい

    だから体制側である天茜達の成し遂げようとする偉業を応援するように、当然の行為であるようにいつの間にか感じてしまう作品となっていたわけだ
    それだけにラストのあの言及は本当に驚かされましたよ…。いや、細かく読めば所々に違和感を覚えたり、これまでの認識と少し異なるような記述とか、あまりに支配的な朝廷の姿とか見ている筈なのだけど、それ以上に天茜達こそ在るべき英雄の姿と思い込まされていただけに、全くの予想外と思えてしまうんだよね……

    この先に待つのは誰が為の踏破儀式か?異なる立場の天茜と祭花が判り合う日は在り得るのか?
    本作がどのような道筋を辿っていくのか、そもそも何が正しいのか全く予想が付かないだけに先を知る事に恐ろしさすらある物語に思えましたよ…


    あと、少しだけ同作者の『エイティシックス』と繋がりを感じられる表現があったのは嬉しいサービスに思えたり
    あれが直接に『エイティシックス』へと至るとは思えないけど、あちらにて意味の判らん存在だった「原生海獣」とかの正体が判る何かがあれば更に嬉しいなと思ってしまうね

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    2026年06月27日
  • ヤエブキ機関 千万丈塔踏破録1【電子特別版】

    Posted by ブクログ

    ネタバレ

    最高だよ安里アサト先生
    とにかく激重感情双子に情緒ぐちゃぐちゃにされた。
    今回速やかにフォーリンラブしてるなとか思ってたらラストでびびった。先生の掌の上すぎる。次巻2ヶ月も待てなくてつらい。
    あとはちょこちょこ見覚えあるカタカナ出てきてにまにま笑いながら読んだ

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    2026年06月12日
  • ヤエブキ機関 千万丈塔踏破録2

    Posted by ブクログ

    ネタバレ

    1巻ラストから引っ張った世界の実情説明と祭花のメンケア回
    素直な感想としては、やっぱり末期戦じゃん!!と、茨宮おいしすぎるな、でした。
    和名とカタカナ当て字の固有名詞が飛び交うので読むのはちょっと大変だった(個人的に古典の知識が乏しくて想像力働きにくいのも原因)
    とりあえず今回の説明を踏まえて1巻読み直そ〜って感じでした!

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    2026年08月11日