月々ゆきのレビュー一覧
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Posted by ブクログ
【この気持ちを忘れることなんてできない(鍵下)】
Eros度★
おやおや。好きな相手から友達になりたいと言われても、素直に喜べない。その苦しさを、こんなに可笑しく、こんなに切実に味わうことになるとは。爽やかなワンコ系の瀬原と、一途なのに恋には不器用な鍵下。友達という関係に二人が託す意味の違いを軸に、近づく喜びと傷つく怖さを描く青春BLです。
まずツボだったのは、鍵下が好きな相手を避けているところです。叶わないと決めた恋を抱え、関わらずにいようとしていたのに、当の瀬原から接近される。しかも求められるのは友達という立場。嬉しくないはずがないのに、それでは苦しい。鍵下の困惑を知ると、瀬原の人懐っこさが眩しいと同時に、少々罪深くも感じられます。この時点で、二人の間に流れる感情の違いに引き込まれました。
押し切られた鍵下が、瀬原の嫌なところを探して諦めるために友達になる、という流れもたまりません。仲良くなりたい気持ちを、そのまま認めるわけにはいかない。恋を終わらせるためという理由をつける姿に、自分の心を守ろうとする必死さを感じました。けれど、知り合えば失望できるという目算は、相手が魅力的であるほど崩れていく。友達になることが解決策どころか、新たな悩みの始まりになる構成が効いています。
一緒に過ごすようになってからの鍵下は、とにかく内心が忙しい。「これはデートじゃない」と言い聞かせる場面には、頬が緩みました。そんなに強く否定するほど、二人でいる時間を特別に感じているのですよね。瀬原からすれば友達との時間でも、鍵下には言葉一つで心が揺れる時間。外では平静を保とうとしながら、心の中では大騒ぎしている。その落差に、しっかり萌えました。
ただ、この賑やかさを笑っていると、すぐに切なさが追いついてきます。「友達になれるかもなんて、そんなの無理に決まってるだろ!」という心の声は、瀬原と仲良くすることへの拒絶というより、恋心を隠したままでは自分がもたないという悲鳴に聞こえました。近づいてくれて嬉しい。けれど期待するのは怖い。相反する気持ちの間で踏ん張る鍵下が健気で、見守るこちらまで落ち着かなくなります。
そんな鍵下に対し、瀬原は「でも、やっぱり友達になれて良かった。鍵下のことたくさん知れてうれしい」と伝える。ここが、とても印象に残りました。鍵下自身を知ることに喜びを感じているのが、まっすぐ伝わる言葉です。瀬原にとっても、この関係は何となく続けているものではない。話せること、知らなかった一面に触れられることが、彼の日々を豊かにしている。その嬉しさには、こちらも顔をほころばせてしまいます。
でも、鍵下の側から受け取ると、同じ言葉が痛いのです。親しくなれた喜びを分かち合いたい相手から、友達という名前も一緒に渡される。もっと近づきたい気持ちがあるからこそ、その名前に立ち止まってしまう。悪意のない言葉が相手を苦しめるところに、この作品のすれ違いの切実さがあります。瀬原の喜びも本物で、鍵下の痛みも本物。どちらか一方の気持ちを軽く扱わずに読めるところが、胸に響きました。
やがて鍵下の中で、「知れば知るほど恋してく」という実感が膨らんでいきます。嫌いになる理由を探していたのに、知ったことが次々と恋の理由に変わってしまう。諦めたいという願いの下で、気持ちだけが春の芽のように伸びていく。その止められなさが切なくて、胸がぎゅっとなりました。最初の友達になる決意がここへつながるからこそ、心情の流れに説得力があります。
特につらかったのは、鍵下が平静を装えなくなるところです。「つらい、苦しいよ」という言葉には、内心の勢いで隠せなくなった本音が滲んでいました。そばにいられるなら十分だと割り切れたら、どれほど楽か。それでも、友達という距離では苦しい。相手の望む関係に自分を合わせ続ける限界が伝わってきて、もう気持ちを押し込めなくていいと願わずにはいられませんでした。
そこからは瀬原が、自分の気持ちと、鍵下に与えていた痛みに向き合う姿にも心を動かされます。距離を縮める積極性に加え、相手の言葉を受け止めて、自分の行動を振り返れるところに惹かれました。鍵下と過ごして嬉しかった時間が、彼の中で何を育てたのか。その確かめ方まで含めて、瀬原自身の恋の歩みを感じられます。言葉がすれ違いを生んだ二人だから、今度は言葉で心を近づけようとする姿が嬉しいです。
描き下ろしの親密な場面も、この流れがあってこその甘さでした。気持ちを抑えるために相手を意識していた時間から、好意を受け取って距離を縮める時間へ。触れ合いが、関係の変化を実感させる感情表現として働いています。一人で耐える場面を重ねてきた鍵下だからこそ、瀬原からも求められる幸福が伝わり、こちらまで頬が緩みました。
同級生の日常を舞台にした青春BL、爽やかなワンコ系攻め、一途で恋に不器用な受け、内心の騒がしさと切実さの落差、友達と恋人の境界ですれ違う関係が好みの方におすすめです。片想いの痛みと、相手を知る喜びの両方をじっくり味わいたい方にも、ぜひ読んでいただきたい一冊です。