ゲーム会社で人材育成を担当している怜奈は、自社で制作される恋愛シミュレーションゲームをきっかけに、人気声優の高峰有起哉と出会う。第一印象は決して良いものではなく、遠慮のない有起哉の言動に反発していた怜奈だったが、お酒の勢いから思いがけず身体の関係を持ってしまう。さらに、突然姿を消した怜奈の元恋人を一緒に捜すことになり、二人の関係も少しずつ変化していく。
人気声優とゲーム会社勤務のヒロインという設定だけでも面白かったのですが、そこに行方の分からなくなった元恋人の存在が絡み、単純な恋愛だけでは終わらないストーリーになっていたのが印象的でした。
最初は少しチャラくて軽い男性なのかなと思わせる有起哉ですが、読み進めるほどに、それだけではない一面が見えてくるのが良かったです。声優という職業を活かした甘い囁きや距離の詰め方には色気がありつつ、意外と繊細な部分も持っていて、そのギャップも魅力的でした。
そして怜奈の「あんた」呼びを含めた二人の掛け合いも好きでした。最初から甘々というより、反発したり言い合ったりできる二人だからこその距離感が楽しく、有起哉に簡単に流されるだけではない怜奈の性格も良かったです。
二人の始まりがお酒の勢いからの身体の関係だっただけに、そのまま曖昧な状態で恋人にならなかったところも個人的には好みでした。特に、有起哉の弟が怜奈の元恋人だったという複雑な関係にきちんと向き合い、弟とも話をしたうえで、有起哉自身が自分の気持ちを整理してから怜奈に想いを伝える流れがとても良かったです。そこでようやく二人が恋人同士になるからこそ、身体だけだった関係にきちんと心が追いついたように感じられました。
後半は元恋人をめぐる物語もしっかり動いていき、最後まで盛り上がりがあって楽しめました。少し変わった設定から始まった物語が、恋愛面も含めてきれいにまとまっていくので、読後感も良かったです。
なかでも好きだったのがラスト。
有起哉が育った児童養護施設で、たくさんのひまわりが咲く中、二人で麦わら帽子をかぶって過ごす光景がとても温かくて印象に残りました。物語の始まりが身体からだった二人だからこそ、最後には有起哉がきちんとプロポーズし、これから先も一緒に生きていくことを言葉にして終わるのが素敵でした。
少し危ういところから始まった二人が、過去と向き合いながら身体だけではなく心でも結ばれていく。甘さだけでなく物語としての起伏もあり、最後までしっかり楽しめる作品でした。