タヌキの売れない小説家ポランは、北国の森の奥にひっそりと暮らしている。家の扉には「ノックしてもむだです」のかんばんをかけて。ある日、その扉を、カモのマジシャン「ドリ」がノックする。それが、南国への、とんでもない二人旅の始まりだった。
ポランは、はちゃめちゃなドリに巻き込まれて、無一文になるわ、走っている列車から飛び降りるわ、寒い中をさんざん歩かされるわ、大変な目にあう。でも、全く気の合わなかった2人に、いつしか友情が芽生えていく。そこが好き。そのきっかけになるのは、この場面かな。
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「マジシャンってのははでそうに見えて、あんがいかげでちまちま努力しているんだなあ」
するとドリは、羽をぷるぷるとひきつらせながら言いました。
「はでに見えるものなんて、たいがいそうだ。サッカー選手も、ムービースターも、ちまちまやってる。あんただってそうだろ?」
「ぼく?」
「ちまちま、ちまちま、文字を書く。それが物語になる。ちがうか?」
ポランは、ふしぎな気もちでドリの顔をながめました。ついさっきまで、決してわかりあえない相手だと思っていたのに、今は、ドリだけがポランの気もちをわかってくれるような気がしました。
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2人を結びつけ始めるのはマジック。ドリがマジックを披露する場面はかっこよくて魅力的だし、それを純粋な気持ちで楽しんでいるポランも素敵。
また、出版社に「暗い」とダメ出しされるポランの作品を、元マジシャンのクマ「ステランコ」が「愛読書だ」と言う場面には胸がじーんとした。
「わしの愛読書だ。暗いし、手きびしい物語だが、その中にもかすかに光がある。この本に出会ったとき、わしはマジシャンをやめたばかりでふさぎこんでいた。そういうとき、明るい話というのは、まぶしくて読めないもんだ」
ポランが書く本は暗いお話みたいだけど、この本はとても明るく楽しくて、ちょっぴりほろりとなる場面もある。2年生のよく読める子から中学年の子に勧めやすい作品だと思う。