マリー・ルイーゼ・カシュニッツのレビュー一覧
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ネタバレ戦後ドイツの作家、マリー・ルイーゼ・カシュニッツの日本オリジナル短編集。
一編一編が高級チョコのように味わえる作品集。幻想的でありつつも、どこか人間の普遍的な不安感が漂う。その暗い感じがクセになる作家。
以下、作品毎の感想。
◯白熊 ★おすすめ
帰ってきたのに何故か電気を付けたがらない夫と妻の会話。出会った動物園で、妻は本当は誰を待っていたのか。会話しているのは本当に夫なのか。不安がピークになるころ意外な展開に。
◯ジェニファーの夢
夢を見たという娘のジェニファー。日を追うごとに夢が日常を侵食しているようで、得体の知れない娘への不気味さが描かれた作品。
◯精霊トゥンシュ ★おすすめ
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『「それから?」 夫はきつい口調でたずねた。「白熊がなにをするか知ってるくせに。首を左右に振るのよ。いつまでも右に左に」「きみみたいにな」「わたしみたいに?」女はおどろいてそうたずね、闇の中でいまいわれたとおり首を左右に振った。「きみはだれかを待っていた」夫がいった』―『白熊』
初めて読む作家、マリー・ルイーゼ・カシュニッツの短篇集。最初の幾つかの短篇を読むかぎり、これまで読んだ欧州の怪奇譚の雰囲気と似ている語り口で、初めてのような気がしない。例えば最近読んだものだとアラン・ノエル・ラティマ・マンビーの「アラバスターの手」とか、シルヴィア・プラスの「メアリ・ヴェントゥーラと第九王国」などが思 -
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カシュニッツは今回初めて読んだけど、面白かった!
人間心理の闇、奇妙な味、といったような短編集。
日常が少しずつずれていく感じや、夢と混ざり合っていくような感じの塩梅がちょうど良かった。
あまりにも突飛だったり、幻想的すぎる話だと個人的には楽しめないことがあるので…。
迷信かと思いきや否定もしきれない『精霊トゥンシュ』。
間違った船に乗ってしまい、奇妙なことが起き続けていることを知らせる手紙が届く『船の話』。
隠れて生きたユダヤ人女性の人生を描いた『ルピナス』。
若い夫婦に追いやられていく老女の『いいですよ、わたしの天使』。
そして、SFホラーぽさもある表題作の『その昔、N市では』。
どれ -
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カシュニッツは1901年に生まれて1974年に亡くなった作家で、これまでも何冊か翻訳が出ていたらしいが、全く知らなかった。
読んでみると、暗くて不安に満ちていて、うっすらとした恐怖を感じるという全体のトーンは共通しているが、内容はバラエティーに富んでいて、こんな面白い作家、どうして今まで話題にならなかったのだろうかと思った。
「いいですよ、わたしの天使」「船の話」なんかは岸本佐知子の「居心地の悪い部屋」に入っていてもおかしくない。
「白熊」「幽霊」「精霊トゥンシュ」は、古典的な幽霊小説の風格があるし、「長距離電話」「ルピナス」は構成の巧みさが際立つ。
「ジェニファーの夢」「ロック鳥」「人間とい -
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これは面白かった!というか、実に好み。ホラー寄りの奇妙な味、というのかな。柔らかいのだけれど。
読んでいて、なんか読んだことあるなーと思い、カシュニッツはいくつか読んでるんだと思うんだけど、もっと読みたくなった。でも家を探したが河出の『ドイツ怪談集』しか見当たらなかった。特に『いいですよ、わたしの天使』は絶対読んだことあるーと思うんだが、なんのアンソロジーに収められいるのか。訳者あとがきでは既役について素っ気なく、なんのアンソロジーに入っているのかわからない。
特によかったのは『白熊』『ジェニファーの夢』『船の話』『幽霊』『ルピナス』『長距離電話』『四月』『いいですよ、わたしの天使』…あれ -
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日常という薄氷がひび割れ、暗い水に沈んでいくような、人間心理の歪さ、奇妙さを描く短編集。「ティンパニの一撃」により様相が一変する様や、不条理さ、語りの上手さなどはサキやビアスを思わせるところもあるが、カシュニッツは登場人物達の歪みや孤独を自己のものとして内面化しきって書いているような印象を受けた。文章自体は抑制されたものだけれど、共感のまなざしを感じる。短編としての完成度の高さも素晴らしかったけど、そこがとても好ましかった。そういう意味では、作品のタイプは違うけれども同時代人のエリザベス・ボウエンも少し思い出す。どの作品もそれぞれよかったけど、特に好きなのは「雪解け」、「脱走兵」、「いつかある
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一作目から強く引き付けられた、ドイツ女流作家カシュニッツ、2作目。
ナチス政権下にありながら、出国せず、ドイツ内で内的亡命という執筆活動を継続した(ちょっと、想像がつかない、凄いもの!)
男爵の家系に生まれ、夫が学者、きわめてエリートの資質を持った気高い女性かと思われる。
訳者酒寄氏の言葉によると、この2冊で、彼女の短編作品の3割邦訳が達成と。
今後も追い続けられるのは愉しみ。
作風としては「超常現象・心理劇・シュールな筋立て」
夫の影響によるものではなく、恐らく、彼女が生来持っている世界観・人生観であろうと語る酒寄氏。
薄い一冊だが、ㇲ~っとはとっても読めない。1行1行、吸い付くように -
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20世紀に作品集を出し、いくつかの賞をゲットした女性。初めて名前を耳にしたが、男爵夫人、学者の妻といった経歴以上に、優れた素質を覆いに感じる。
文体うも読み易く、どこかで触れた記憶を受けた・・サモアラン、シーラッハでおなじみの酒寄氏の手になるもの。
彼女独特に独特な視点(ナチス支配下と言えども、アーリア人であり代々男爵の家に生まれたという高貴な血、結婚相手も考古学者というアカデミック環境から来るスノッブ臭やや強め)、言葉遣いは読む者の思惟を深めてくれる。
お冷められた15編はいずれも珠玉、素晴らしいが「いいですよ、私の天使」が秀逸だった。
当人と対峙する相手の視点の辛みが不安、恐怖、戦慄・・ -
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滅亡の日を憂いでいる彼女の日常に溢れる幸福と悲哀… カシュニッツ作品集第二弾 #ある晴れたXデイに
■きっと読みたくなるレビュー
ドイツ生まれで、戦後1940-60年代に小説や脚本を手掛けたカシュニッツの短編集です。ミステリーではありませんが、人間の深い部分を描いた作品集とのことで、気になっていた一冊です。
どの作品も何かしらの背景を抱えつつ、人間は家族関係を切り取って表現している。幻想的な世界観ではあるものの、心情描写は芯を突いた深い部分を感じることができる作品ばかり。いくつかお気に入りの作品をご紹介します。
●雪解け
夫婦の物語。夫が自宅に帰ると、妻は外を警戒している様子で…
人生 -
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文章は理知的。怪異譚もクラシカルな趣きで端正。しかし登場人物の心は揺らぎ、不安定な危うさを秘めている。
すっと読み通せるが、収められた各短編には読み流すことを許さない、しっかりとした手応えがある。
表題作は、外国人労働者への依存と無理解、エッセンシャルワーカーの仕事に価値をおかない世界に対する批評が想起される寓話。
『見知らぬ土地』では、“人間性という壊れやすい幻想がささいなことで消し飛ぶ”様が描かれる。戦後ドイツの連合国による占領地域にて、敵国の軍人と居合わせることによる緊張がサン=テグジュペリの名前を出すことによって緩和されていく。しかし、その交流は脆く、苦い思いが残る。ヒューマニズムを否 -
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戦後ドイツを代表する女性作家の傑作選。全15作。
ふわっとしていて、灰色で、どこか不安になるお話のあつまり。「長距離電話」が好き。わかりやすかった。怖かったのは「いいですよ、わたしの天使」→
もう、死ぬほど怖い。ホラーじゃないんだけど、なんか、怖い。こんなのおかしいよ!って叫びたくなる。読み直したらまた怖かった……。
「ルピナス」は切ない。切なすぎる。「白熊」や「精霊トゥンシュ」「その昔、N市では」あたりは日本の昔話にありそう。
「いいですよ、わたしの天使」はコロナ陽性が出てまぁまぁしんどいタイミングで読んで、だいぶんやられた(笑)怖かったよー。でもある意味1番印象残ったわ。たぶん忘れない