ロダン、レンブラント、クールベのリアリズム、
大局観を養う為にアートを観てる
堀越 啓(ほりこし・けい)
株式会社SDアート 代表取締役彫刻家と交流がある家で育ち、彫刻家・佐藤忠良氏より命名される。上智大学経済学部卒業後、事業企画等の事業戦略策定などを経験。2012年4月SDアートに入社し、2015年代表取締役に就任。ピカソに彫刻を教えた彫刻家「フリオ・ゴンサレス展」や、風と水の彫刻家「新宮晋の宇宙船」展、富山県立美術館のシンボル彫刻設置、「真鶴町・石の彫刻祭」などのプロジェクトを手掛ける。2022年4月より、SDアート企画による「生誕110年 傑作誕生・佐藤忠良」展が全国美術館を巡回。...続きを読む 彫刻を中心とした美術展の企画や、アートプロジェクトを数々手がけている。また、オンラインサロン「ロジカルアート」を主宰し、主にビジネスパーソンや経営者に向けて、美術の読み解き方のセミナーを実施。著書「論理的美術鑑賞」(翔泳社)は、韓国や中国でも翻訳・出版されている。
「最近では、「美術がビジネスに役立つ!」とされ、日本のビジネスパーソンの間にも、美術鑑賞ブームが広がってきています。ビジネス誌をはじめ、多くの雑誌でも美術業界に光を当てた特集を組むことが多くなり、「美術を見ることで、 VUCAワールドという不確実性の高い時代をサバイブする美意識や感性という武器が手に入る」というトレンドが定着しつつあります。 不確実性が高い予測不能な世界では、知識のみの頭でっかちな思考では限界があることから、美術鑑賞によって感性や美意識を高めていくことで、 VUCAワールドをサバイブできると考えられているからです。私のようなアートビジネスに携わる者としては、「ようやく美術が注目される時代になった!」と嬉しく思っています。大学で講演したり、開発したアートプログラムを一般の方々に教えたり、企業研修を行ったりする機会を多く頂戴するようになりました。」
—『論理的美術鑑賞 人物×背景×時代でどんな絵画でも読み解ける』堀越 啓著
「しかし、そんな鑑賞の仕方が変わったきっかけが、オーギュスト・ロダンのことを調べていたときでした。ロダンの人生を調べていく過程で、当時のフランスの情勢をまとめていたときに「これはビジネスフレームワークの PESTという切り口が使えるのではないか」と思い、「型」によって情報の整理ができることに気がつきました。そして、実際にそれを試してみると、これまでの表面的な感想にとどまっていた段階を抜け出し、奥行きのある見方ができるようになっていきました。その結果、1つの作品から読み取ることができる情報が格段に増え、絵が生き生きと輝いて見えるようになったのです。これにより作品を鑑賞した後の感想が明らかに変化し、自分でも「細部まで作品を理解できている」と感じられるぐらいに、大いに美術を楽しめるようになりました。今では、美術を鑑賞する喜びをじわじわと感じています。」
—『論理的美術鑑賞 人物×背景×時代でどんな絵画でも読み解ける』堀越 啓著
「以上のような話をしても、「美術って感性とかセンスがある人にしかわからないものでしょ? だから、自分には一生理解できないはず」という先入観から抜けられない方も多いかと思います。私も長い間、「美術を理解するためには感性が不可欠」だと信じていました。「美術は、正体不明でつかみどころがなく、一部の感性の鋭い人にしか理解できないもの」「美術を深く理解するには、生まれつき備わっている感性という『才能』が必要なんだ」と思い込んで、理解することをどこかで諦めていました。 しかし、これは「誤解」です。はっきりいってしまえば、このように感じられる原因は、「美術は何の情報や知識も入れずに感性で理解するもの」という誤った前提がはびこっているせいです。しかし、 20世紀までの「西洋美術」と呼ばれる作品を真の意味で理解するためには、その作品に関する情報や知識が不可欠です。なぜかというと、西洋美術は日本人が理解しづらい要素が満載だからです。文化・宗教的な土台が全く異なるだけでなく、「当時の人々の政治、経済、社会生活などの状況が想像できない」というケースもあります。そうした前提知識がなければいくら感性が優れていたとしても、美術を真に理解することはできません。」
—『論理的美術鑑賞 人物×背景×時代でどんな絵画でも読み解ける』堀越 啓著
「これらのわからなさが相まっていくことで、「美術は難しい」という固定観念が定着してしまったのでしょう。確かに、このような違いを「感性だけ」で理解することは、とてもできません。もともと感性が優れている人であっても、この前提を理解していないと、西洋絵画の奥深さを味わうことが難しく、いつまでたっても展覧会が物足りなく感じられてしまうのです。つまり、時代背景や知識などを上手に取り入れるための「読み解き方」を身につければ、美術を深く理解できるようになるということです。そして、「型」を使った美術鑑賞の経験を積んだ結果、わからなかったものがわかるようになり、さまざまな情報がつながっていきます。作品を鑑賞した瞬間に、その絵画の後ろに流れる人や時代、時間の流れ、場所の空気などがどっと自分の中に入り込んできて、「絵が生き生きと輝いて見えるようになる」体験ができるようになるのです。 この様子は、はたから見れば、あたかも「感性によって、絵画を一瞬で読み解いた」かのように見えるでしょう。しかし、実際は感性ではなく、このあと本書で解説するようなロジックを用いて読み解いているのです。」
—『論理的美術鑑賞 人物×背景×時代でどんな絵画でも読み解ける』堀越 啓著
「 次に、「場所」を見ていきます。ここでいう「場所」とは、その作品が制作された、もしくは発表された場所を指します。美術は場所と密接に関連して発展してきたので、この要素を意識的に捉える必要があるのです。 大まかにいえば、近世以降の美術の中心地は、「イタリア(近世) →フランス(近代) →アメリカ(現代)」の3つとされています。このように移り変わった理由には、「宗教上の理由(カトリック vsプロテスタント)」や「政治的な理由」などの要因があります。中でも、大きな要因は「美術は富があるところで発展する」ということです。経済的な発展は、いわば文化をつくる土壌です。加えて、イタリアやフランスは、カトリックが中心の国であり美術を推進する土壌(偶像崇拝が可能など)があったことが大きいといえます。そのおかげで、イタリアでは「ルネサンス」という素晴らしい文化が花開く時代が生まれ、フランスでは「ベルエポック」という花の都パリのような理想的な文化時代が産声を上げていきました。」
—『論理的美術鑑賞 人物×背景×時代でどんな絵画でも読み解ける』堀越 啓著
「例えば、「時代」がわかれば、アーティストが「何歳のときに描いたものか」がわかります。この作品は、マネが 50歳のときのもので、亡くなる前年に描かれたものです。したがって、マネの最晩年の作品です。また、「 19世紀後半 フランス」で調べてみると、フランスでも産業革命が進展し、鉄道やエッフェル塔がつくられ、繁栄した時代だったことがわかるでしょう。そして、マネが活躍した時期は、まさにパリが芸術の都として世界的に認知される「パリ黄金時代」の到来と重なるとわかるのです。 以上のように、この「 3 P」を意識して、部分的で構わないので、「時代」と「場所」そして、「人」を概観し、作品の背景情報を「自分データベース」に蓄積していっていただけたらと思います。」
—『論理的美術鑑賞 人物×背景×時代でどんな絵画でも読み解ける』堀越 啓著
「このように人間は物事を見ているようで意外と見えていないことが多いのです。もしくは、同じものを見ていても、人によって「認識できているもの」が驚くほどに異なります。特に、絵画を見慣れていない人や、深く読み解けない人ほど、「何が描かれているか」を捉えきれていない場合が多いのです。 これから深く絵画などの作品を鑑賞していくためには、画面に何が描かれているのか、漏れなく、丁寧に見ていくことが最初のステップです。これができるようになると、美術鑑賞がもっと楽しくなります。「自分にできるかな……」と不安に感じるかもしれませんが、ご安心ください! この章で紹介する「作品鑑賞チェックシート」を使うことで、「作品を漏れなく捉える」ことが可能になります。」
—『論理的美術鑑賞 人物×背景×時代でどんな絵画でも読み解ける』堀越 啓著
「STEP 1旅の始まり「どうやってアーティストとしての人生が始まった?」 最初に、どのようにアーティストとしての人生が始まったのかを見ていきます。アーティストとして生きていくことを自ら決断していく場合もあれば、流れに流され半ば強制的にアーティストとして生きていくことを余儀なくされたり、友人に誘われてなんとなく始まったり……。さまざまな形で、アーティストはその道を歩み始めます。 どのような経緯で美術と出会い、アーティストとしての道を歩むことになったのか、アーティストとしての「旅の始まり」を捉えていきましょう。 STEP 2師匠、メンター、仲間「どんな出会いがあった?」 旅が始まるとその道すがら、さまざまな人たちと出会います。友人やライバルなどの共に切磋琢磨する人、自分の師となるような指導者、精神的な拠り所となるメンターといった人々との出会いを通じて、旅の方向性が少しずつクリアになっていきます。出会った人々の影響を受けながら、アーティストは描く力や技術を向上させていったり、当時の最新の美術の動向に触れたり、衝撃を受けたり、いろいろな思いを胸に宿らせ、自己の表現へと変換していきます。そして、自分の才能が徐々に多くの人の目に触れるようになっていき、アーティストとしての実績を重ねていきます。」
—『論理的美術鑑賞 人物×背景×時代でどんな絵画でも読み解ける』堀越 啓著
「STEP 5使命「結局、彼/彼女の使命は何だった?」 人生が終わりを告げれば、当然、そのアーティストの歩みがそれ以上進むことはありません。運がよいアーティストは生前に高い評価を受け、巨匠としての地位をほしいままにすることがありますが、そのようなケースは珍しいです。多くのアーティストは死とともにその作品たちが忘れ去られてしまいますが、時には死後にその評価が高まるなど、周囲の人たちにより、その「評価」が変化するケースもあります。 時間が経過して再評価される(逆に評価が低くなる)ことは、「そのアーティストの使命は何だった?」という問いへの答えにもつながります。したがって、「どんな使命を持って生まれてきたのか?」という問いを持ってアーティストの人生を眺めることは、アーティストの役割を理解し、アーティスト自身を深く知る一助になります。」
—『論理的美術鑑賞 人物×背景×時代でどんな絵画でも読み解ける』堀越 啓著
「レンブラント・ファン・レイン( 1606年7月 15日〜 1669年 10月 4日)はバロック期に活躍したオランダを代表する画家で、代表作に、《夜警》(口絵 6)があります。 バロック期には、数多くの傑出した画家たちが生まれました。イタリアのカラヴァッジョ、フランドルのルーベンス、スペインのベラスケス、そして、オランダのフェルメールなど、西洋のアートヒストリーの中でも非常に重要な画家たちです。レンブラントもそのうちの一人で、非常に重要な存在として歴史に名を残しています。 そんな彼の人生は、一言でいえば「浮き沈みが激しい人生」といえるでしょう。そして、その浮き沈みによる「人生経験」こそが、彼の絵画表現をより深く豊かにし、稀代の画家として歴史に名を残した理由ともいえます。では、早速彼の「ストーリー分析」を行ってみましょう。」
—『論理的美術鑑賞 人物×背景×時代でどんな絵画でも読み解ける』堀越 啓著
「ラストマンへの弟子入り 1624年、 18歳のレンブラントは、当時オランダ最高の歴史画家といわれたアムステルダムのピーテル・ラストマンに師事しました。半年ほどの期間でしたが、バロック絵画の先駆者となったカラヴァッジョの明暗技法などを学び、当時の最先端の絵画技術、表現を学んでいきました。ヤン・リーフェンスという神童との競争 ラストマンの門弟になることで、同じように、 12歳で弟子入りし画家として活動を始めていたヤン・リーフェンスと知り合い、競い合う関係になりました。リーフェンスは若くして活躍しており、神童としての呼び声が高かった画家で、一時期、レンブラントと共同でアトリエを構えるなど、切磋琢磨する間柄でした。妻サスキアとの出会い 1630年にアムステルダムに出てきていたレンブラントは、 1633年、裕福な一族の娘、サスキアと結婚しました。これによりレンブラントは正式にアムステルダム市民となり、多額の財産と富裕層とのコネクションを手にし、富と名声を得ることに拍車をかけていきました。 この時点でレンブラントは若くして画家として成功し始め、 1635年には当時所属していた工房から独立し、数多くの弟子が門下に入りました。」
—『論理的美術鑑賞 人物×背景×時代でどんな絵画でも読み解ける』堀越 啓著
「さて、続いて取り上げるのが、私の会社とも深いつながりがあり、世界で最も著名な彫刻家の一人であるロダンです。 オーギュスト・ロダン( 1840年 11月 12日〜 1917年 11月 17日)は 19世紀〜 20世紀初頭に活躍し、近代彫刻を切り開いた祖として歴史に名を残しています。《考える人》《カレーの市民》《地獄門》が代表作です。ロダンが生きた 19世紀は、リアリズムや印象派、ポスト印象派といった革命児たちが絵画の常識を変革していった時代です。ロダンもまた、伝統的な彫刻の様式を変革し、近代彫刻への道を開拓した革命児といえる存在です。 そんなロダンは、非常に旺盛な制作意欲を発揮し続け、多量な作品を残した「モンスター彫刻家」といえるでしょう。彼の本質的な素晴らしさは「多作」という点にあります。世界で最も有名なアーティストの一人であるピカソも多作の天才ですが、ロダンも彫刻という「立体で重量がある」作品を 6000点以上も制作したといわれています。特に、人生の前半は、世に出るような作品を制作していなかったため、後半のほぼ 40年の間に大量の作品を制作したのです。 では、ロダンは、どのような人生を歩んだのでしょうか? 早速見ていきましょう。」
—『論理的美術鑑賞 人物×背景×時代でどんな絵画でも読み解ける』堀越 啓著
「STEP 1旅の始まり「どうやってアーティストとしての人生が始まった?」 ロダンは二人姉弟の弟としてパリの労働者階級家庭に生まれ、 10歳のときに絵を描き始めました。彼は幼少のころから視力が非常に悪かったため、読み書きするのにも苦労し、勉学に集中することが難しかったようです。そのような問題を抱えていたので、ロダンにとって「絵を描くこと」は読み書きの代替手段ともいえる、非常に重要なことでした。 14歳のときには絵を学ぶためにパリの美術学校のプティット・エコールに入学し、アーティストとしての道を志します。」
—『論理的美術鑑賞 人物×背景×時代でどんな絵画でも読み解ける』堀越 啓著
「STEP 4変容・進化「その結果どうなった?」 1875年にはイタリアに旅行し、このときにドナテッロやミケランジェロの彫刻と出会い大きな影響を受けました。その結果、彫刻家として自分の名を冠して活動していくことを心に決め、そこで完成したのがロダンの出世作《青銅時代》です。前述の通り、発表当初は「生きたモデルをそのまま型取ったのではないか」と批判を受けましたが、その後ロダンは、《青銅時代》が型取ったものではないことを証明するため、より大きなサイズで制作しなおした同名の作品を発表します。すると、今度は大きな評判となり、ロダンの実力が世の中に認められるきっかけとなりました。 その後、代表作となる《カレーの市民》《考える人》などを制作し、 1889年にパリ万博に際して発表された《接吻》は国際的に大きな評判を呼び、世界的にその名が広まっていきました。その栄華は、 1900年のパリ万博でロダンの大回顧展が行われ、頂点を迎えます。結果、名実ともに世界的に評価された彫刻家として、現在でも広く知られています。」
—『論理的美術鑑賞 人物×背景×時代でどんな絵画でも読み解ける』堀越 啓著
「あくまでも美術は、個人的な嗜好や解釈で楽しんでいくものだと私は思っています。したがって、歴史的な背景の正誤にこだわりすぎて作品を見ることがつまらなくなってしまっては、本末転倒です。目的はあくまで「作品を動画的に見て、これまでよりも深い見方ができるようになること」ですので、悪しからず。これは、本書で紹介する他のフレームワークでもいえることですので、ぜひ楽しみながらチャートに書き込んでいってください。」
—『論理的美術鑑賞 人物×背景×時代でどんな絵画でも読み解ける』堀越 啓著
「かつてスペインの植民地だったオランダは、スペインによるカトリックを強制する動きへの反発などを原因として独立した経緯もあり、それらを象徴する宗教画などの歴史画というジャンルに対して辟易していました。このような風潮もあり、オランダの裕福な人々は、自分の邸宅に合う小さなサイズの、宗教的な要素を感じさせないようなジャンルの絵画を好んで購入するようになりました。それまでは「歴史画こそが、高貴で素晴らしいもの」とされており、当時のジャンルの中でもヒエラルキーの上位でしたが、下位のジャンルである風俗画や風景画といった「非宗教的な絵画」へと嗜好が移っていきました。」
—『論理的美術鑑賞 人物×背景×時代でどんな絵画でも読み解ける』堀越 啓著
「このような捉え方によって、物事を考える際にこれまでよりも少し「大きくて長い」視点で思考できるようになります。現代のビジネスパーソンは、短期的な視点で明確な数値や結果を求められることが多いです。もちろん、そのような思考の仕方が非常に大事な場面もありますが、「 3 K」のような空間や時間に広がりがある見方は、中長期的で本質的な視点で物事を捉えるための一助になります。このような見方の癖を身につけることで、あなたの人生戦略やビジネスの方向性を描いたりする際にも、「大局観」が持てるようになるのです。」
—『論理的美術鑑賞 人物×背景×時代でどんな絵画でも読み解ける』堀越 啓著
「美術を取り巻く環境がわかれば、当時の空気が体験できる 「A- PEST」のメリットは、「時代の空気を体験できる」ことです。「政治・経済・社会・技術」の観点で、その時代の特徴を捉えていきます。より深く入り込むことで、その状況にタイムスリップしたかのように時代を追体験できます。具体的には、「自らの政治権力をわかりやすく大衆に示すため描かれた」「東方貿易が開始され、富を得て豊かになり美術が花開いた」「産業革命により鉄道が開通したため、その様子が描かれた」などの理由が見えて来ます。美術を取り巻く環境を理解することで、それと関連づけながら美術様式や作品が深く読み解けるようになっていきます。 「A- PEST」は少し抽象度が高く、情報を取り入れるときに大きめに視野を持つ必要がありますが、俯瞰的な視点から情報を整理することで、美術が生まれてきた背景を見通せるようになります。すると、1つの作品から得られる情報が格段に増え、多くの情報を見いだすことができるようになるのです。したがって、自分のこれまでの知識や情報が蓄積されている「自分データベース」に、新しい情報がどんどん投入されます。自分が持っている情報と新たに取り入れた情報が有機的につながり、情報が知識や知恵へと変化していきます。これが、「教養としての知的財産」というレベルへの到達なのです。」
—『論理的美術鑑賞 人物×背景×時代でどんな絵画でも読み解ける』堀越 啓著
「また、当時の最高権力者の意向および政策などが推進された結果、アーティストもそれらの影響を受け、新たな様式や作品が誕生するきっかけになる場合もあります。例えば、イタリアで美術が盛んだったのは、当時の最高権力者が存在したヴァチカンに近かったからであり、権威を示すために美術が用いられたからです。フランスで美術が盛んになったのも、ヴェルサイユ宮殿を建設することを決断した「政策」がきっかけです。政策の結果、宮殿に莫大な美術品が必要となったことが要因の一つとされています。このように、「美術が変化・発展する政治の要因」に想像をめぐらせ、チャートに書き込んでいきましょう。」
—『論理的美術鑑賞 人物×背景×時代でどんな絵画でも読み解ける』堀越 啓著
「好奇心が人一倍強く、複数の分野に渡ってその興味が派生していく性質で、分野横断的に理解しているからこそ、物事の本質が見えていたのでしょう。飛行機や兵器、絵画から彫刻まで、サイエンスも美術も、カテゴリーとして分けず、目の前にある面白いことを片っ端から覗いていったのだと思います(当時は専門化、分化が進んでいなかったという事情もあります)。」
—『論理的美術鑑賞 人物×背景×時代でどんな絵画でも読み解ける』堀越 啓著
「さて、ダ・ヴィンチが生涯をかけて残したかったものとは何だったのでしょうか? 素晴らしい作品に加え、 40年あまりに渡って記された大量の「手稿」があります。ここには、数百年のときを経て発明される飛行機や兵器などの未来の道具とも呼べるようなアイデアがたくさん記されています。 おそらく、ダ・ヴィンチは自らのインスピレーションにしたがってアイデアをしたため続けていたのでしょう。後世の私たちからしてみると当たり前のものも、当時の状況からしてみると「空想」以外の何ものでもありません。彼の偉大さは、芸術分野だけでなく、現在の科学や工学などの先進的な研究とも結びついていることでしょう。まさに、「万能人」と称するにふさわしい「理想像をつくりあげ、後世に続く人たちのロールモデルとなったアーティスト」といえるのではないでしょうか。」
—『論理的美術鑑賞 人物×背景×時代でどんな絵画でも読み解ける』堀越 啓著
「革命画家、ギュスターヴ・クールベを読み解く 続いては、フランスの画家ギュスターヴ・クールベ( 1819年6月 10日〜 1877年 12月 31日)を取り上げます。「クールベ? 知らないなぁ……」という方もいらっしゃるかもしれませんが、アートヒストリーにおいてクールベが果たした役割は非常に大きく、「革命画家」と称されるだけの作品を残しました。代表作は、《オルナンの埋葬》(口絵 2)《画家のアトリエ》(口絵 3)です。」
—『論理的美術鑑賞 人物×背景×時代でどんな絵画でも読み解ける』堀越 啓著
「・クールベは「天使を見たことがないので、天使を描けない」といい、リアリズムを追求・サロンでの成功を目指し、新古典主義とロマン主義が台頭。クールベはリアリズムを宣言し、孤軍奮闘した 主流派は、依然として、歴史画を最上位とするヒエラルキーが存在する制度、アカデミーのもとで行われる展覧会「サロン」で受け入れられやすい作品を制作していました。当時は、新古典主義に対抗するロマン主義が台頭し、理想の美を描くことが求められていたのです。 このような流れに異議を示すことで、新たな流れとして登場してきたのが、クールベの「リアリズム」です。クールベは「私は天使を見たことがないので、天使を描けない」という名言の通り、自分が見たものやありのままの現実を描写することを宣言しました。」
—『論理的美術鑑賞 人物×背景×時代でどんな絵画でも読み解ける』堀越 啓著
「大原美術館は岡山県の倉敷にある美術館ですが、ここも美術を知る人の間ではよく知られた場所です。その理由のひとつが、エル・グレコの《受胎告知》を収蔵しているからです。大原美術館のコレクションは 19世紀、 20世紀の作品が中心ですが、その中でも異色の存在として知られているのがこの《受胎告知》です。 グレコは、美術様式でいえば「マニエリスム」に分類される画家です。マニエリスムは、ミケランジェロらを代表とするルネサンスに続く美術様式として分類されますが、マニエリスムのグレコ作品は、その独自性ゆえに、長い間忘れ去られた存在でした。しかし、後年に再評価が始まり、偶然にもそれを購入したのが大原美術館です。そのような経緯からも、日本にあることが奇跡ともいわれている作品です。 大原美術館には、このあまりにも有名なグレコの作品以外にも、マネやセザンヌ、ゴーギャンらの作品はもちろんのこと、古代オリエントなどの古美術からコンテンポラリーアートまで、幅広い作品が収蔵されており、訪れる者を大変魅了する美術館です。」
—『論理的美術鑑賞 人物×背景×時代でどんな絵画でも読み解ける』堀越 啓著
「美術が必要とされる理由について、私見を紹介してきました。そして、最後にもう 1点、付け加えたいことがあります。それは、「つくりたいという根源的な欲求こそ、人間らしさである」ということです。 これまで本書では、絵画作品の鑑賞方法について紹介してきましたが、作品を鑑賞すればするほど、自分の中にムクムクと湧いてくる気持ちがあるのではないでしょうか。それは、「私もつくりたい!」という感情です。「私は絶対にそうはならない」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、それは絵を描いたり、彫刻をつくったり、音楽を奏でたりする創作的な行動に加え、新しい事業や会社をつくるなどのビジネスにおけることかもしれませんし、イベントを企画するなどの活動かもしれません。美術に触れていき、その一つひとつと向き合えば向き合うほど、このような「つくりたい欲求」が湧き上がってきませんか? これは作品を見ることで湧いてくる「インスピレーション」ともいえるかもしれません。作品に刺激され、想像し、創造したくなる感覚です。」
—『論理的美術鑑賞 人物×背景×時代でどんな絵画でも読み解ける』堀越 啓著