所変われば品変わる、という。時が変わればもちろん、風習・風俗も変わる。
現代において、時代劇の舞台をそれらしく見せるためのお膳立てとして欠かせないのは「時代考証」である。
この時代、このような道具があり、このような言葉遣いをしていた、あるいは反対に、こんなものはなかった、こんなことは言わなかった、と
...続きを読むいう点を押さえておかないと、飛んだ噴飯ものができあがってしまう。
極端な話、江戸の道に電柱が立っているのが見えたら、ストーリーがすばらしくても、俳優が熱演しても、鑑賞する側は興ざめするに違いない。
そんな違和感をなくそうと勤めるのが考証担当の仕事である。
本書の著者はNHKのドラマの考証を担当する人物である。大河ドラマなど、いわゆる時代劇はもちろんだが、戦前・戦中、さらには東京五輪のころまで考証の対象になるんだという。
平成生まれの我が子に「お母さんて昭和『時代』に生まれたんだよね」といわれてずっこけたことがあるが、なるほど、昭和も遠くなりにけり、というところか。言葉もファッションもころころ変わることを思えば、考証を要する時代もどんどんと下っていくわけだ。
タイトルは源信の『往生要集』に倣っているという。特に関連はないと思うが、著者の好きな本だというところか。
中身は用語集風である。五十音順で、項目ごとに豆知識をまとめている。
風俗・食べ物・言葉など、ジャンルは多岐に渡り、時代も平安から昭和までと幅広い。
トウモロコシがいつ日本に入ってきて何と呼ばれ、一般的に食されるようになったのはいつか。
花魁と太夫の違いは何か。
槍が発明されたのは南北朝時代であるので、清盛の時代に「横槍が入る」という台詞は使えない。
変わったところでは「姑の毒殺法」なんていう項目もある。ローマ時代からあるトリックらしい。
項目の羅列であるので、通読するというよりは、細切れ時間に読むのにちょうどよい本だろう。ぱっと開いた頁を数項目読み、へぇぇと思うといった読み方に向いている。
著者によれば、時代劇はファンタジーなんだそうである。史実を並べるだけはおもしろくもなんともない。史実を取り入れつつ、お話としておもしろいものにするのがドラマだ。そんな中での考証の極意は「へんなものを出さないこと」だという。
考証に当たるには、広く、雑学的な知識を仕入れることが大切であるようだ。重箱の隅も縁も真ん中も、全方向をカバーする考証。
ファンタジーを重厚にする陰の役者である。
*本書では取り上げられていないのだが、今やっているドラマで、「秀吉様」とか「信長様」とか盛んに言っている。あの時代、諱はむやみと呼ばないんじゃなかったっけ・・・? あれ、少し気持ち悪いなぁ・・・。中身は結構おもしろく見ているのだが。