長いー!!やっと読みおわった。文章うまいなあと思う。ジョークジョークジョーク、ぽんぽんと読めてつい笑ってしまう。たんなるお国事情だけではない、もっと根底にある何かを掴もうとして、もう一歩踏み込むところが面白い。
幸せはどこにある?という曖昧な、哲学的なテーマで旅をする記録を書いた、ノンフィクション
...続きを読む。アメリカ人である目線から、しあわせ度の高い国や極端に低い国を巡る。
そもそも、最初の幸福研究の進んでいるオランダの取材で、著者は衝撃的なスタートを切る。幸福研究の第一人者から、「(自分は研究ができればよいので、)世の中が幸せになって欲しいとは別に願っていない」と言い切られるのである。
その前に、すでに研究室内の作業員があまり「しあわせそうに見えない」というジョークも挟まっている。幸福について、考えれば考えるほど幸福は遠のくという矛盾がここにある。
触るなそれが薔薇だ、幸せについて考えすぎると不幸になる。しかしそんな啓示を振り切り、各国をめぐる旅に出る著者。
そんな著者の問いは、「幸福な国はどこか?」という単純なものから、「そもそも幸福って何なの?」となり、「いや待って、幸福より大事なこともあるんじゃない?」と形を変えていく。
宗教論やお金のことなど、既存の論理の道筋に足をとられそうになるところを、ギリギリで回避するところがすごくいい。それこそが本書の存在価値だと思う。
なぜそれが可能なのかというと、もちろん著者の取材力もあるが、旅の途中で
「(個人としては不幸であったとしても)社会には、適合者だけではなく不適合者も必要なことがある」という言及があったように、
その社会の適当な不適合者からも話を聞けていることで多角的な意見が聞き出せているからだと思う。
本書は、実際の出来事の話だけでなく、事例や学説をつかった示唆もおもしろい。
いちばん印象に残ったのは、「快楽=幸福か?」という思考実験の話だった。たしかに、快楽だけを与えられてることが真の幸福かというと納得したくない気持ちがわいてくる。
(書いていて思ったが、本書は、こうやったら幸せになれますよ、という単純なものではなく、
「個人の幸福感」vs
「それより重要な(あるいはそれに影響を与えることもあるかもしれない)何か他のもの」
という図式になってるのかもしれない。)
国と国のつなぎ方、ブリッジや話の展開や転換もすごくうまかった。ジョークもこてこてだけど、アメリカの立場を巧妙に利用して絶妙な嫌われものを演じていて、読みやすかった。
おもしろかった国は、カタールとモルドバ。お金があって文化がないカタール。そんなおとぎ話みたいな国があるんだな、と思った。お金も文化もないけど、野菜と果物がおいしいモルドバは、ほんと、いいキャラだなあと思う。どちらのケースも幸福についての示唆に富んでいた。
遊びに行きたい国は、やっぱりタイ(パッタイが美味しそう、タイ料理が好きすぎる)。次にブータン、インド、とアジアが続くのは、やっぱり仏教が好きだからか。人のにおいのするごちゃまぜ文化もおもしろそうだと思う。住みたい国はアイスランド(全員が詩人って最高)。
ちなみにこのアイスランドの失敗を推進する発想は、特に日本人の不幸と密接に関係してる気がして、ぞわっとした。
日本は、仏教的なところもあるし、スイス的なカチッとしたいところもあるし、アメリカ的なマネー成功神話や自己啓発界もあるし、なんかいろんな国の不幸がごちゃまぜになってる。日本はまちがいなく「不幸」を自覚してる国。
いろんな国のあり方、自分で選ぶことのできる範囲とできないこと、地理的条件と宗教のつながりなどが展開されていて、自分自身の「幸・不幸センサー」を把握することに役立ちそう。
幸せそうな人が何故しあわせそうなのか? あるいは 不幸に見える人がなぜそうなのか? ということを考えるきっかけを得ることができる。
中身は濃く、長い。枚数より長く感じた。千ページくらいの読後感。たぶん、文章をそのまま読むだけでなくて、示唆や皮肉、ジョークなど言外の意味が多いからだろう(翻訳なのもあるかも)。
もー長かった!でも長い旅に付き合わされた分、この著者のことはめっちゃよくわかって好きになってしまった。幸があってほしい。