川本直のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
ネタバレどうして私はジュリアンバトラーの著作もアンダーソンの著作も読むことができないのか。
どうしてこんなに興味を掻き立てる書評を前にして、インターネットで検索しても検索しても、著作が一冊もヒットしないのか。悲しい。
20世紀のアメリカでの同性愛に対する偏見が生々しく描かれる一方で、序文から参考文献に至るまで、作者の緻密な技巧に唸らされた。
ヘテロセクシャル、白人至上主義、男性優位社会。こういった思想は、20世紀のアメリカに限らず日本でも文学の世界に色濃く描かれている。
文学は時代を写す鏡でもある。そういった作品を読むとき、その時代の社会通念やその裏側を考えながら読む必要があると、改めて感じた。
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Posted by ブクログ
文章というか字面が美しく、史実に忠実な部分は大変忠実で、かつストーリーテリングに富み(表現、変かな)、キャラクターの造形が素晴らしい、希有なフィクション。長さもまったく苦にならなかった。
主人公のジュリアン・バトラーは、美しく破天で、江口寿史のひばりくん以来の、魅力的な男性の女装キャラ。一方、語り部のジョージ・ジョンは名前の通り、凡庸で(と本人は思っている)、真面目、それでいて偏屈で嫉妬深い、とても人間的な人物で、その対称性が物語を転がしていく。
出てくる諸国の風景もとても美しい。
トルーマン・カポーティのオカマキャラぶりが痛快。
しかし、すべての人々が、平等に老いて醜くなり、この世から姿を -
Posted by ブクログ
星5個じゃ足りなくて50個くらいつけたい。今年の1冊は決定した(まだ2月だけど)あまりの面白さに、読みながら何度か本をぶん投げたくなった。人は酷い本を読んだ時だけじゃなく信じられないほど面白い時にも本を叩きつけたくなるんだな。ジュリアンとの出会いの場面が魅力的で(「じゃあ花屋が来るから」)その2ページを何度も読んだ。会話も含めてとっても映像的。実は中身について何も知らずに読み始めて(また!)河出という出版社のイメージも相まって混乱しまくって最後まで読んだ。登場人物も個々のエピソードも混ぜ具合が最高度に凝ってる。最後の参考資料(資料ったって!)の羅列までしっかり読ませた後に印字された、ラスト1ペ
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たいていの文庫本には、本篇の後に研究者による解説が収めてあって、本篇よりもその解説の熱さにグッとくること、良くあります。そういう優れた解説を読んでいる感じでした。
この作品はたしかに、「ジュリアン・バトラーを求めて」の併録を以て完全版、です。本篇と後書き・バトラーとアンダーソン・僕と作者・フィクションとノンフィクション・言葉と肉体・生と死、相反する2つのものが混ざり合いぐるぐるする快感を味わえます。そして、男と女は人間を二分するものではなくただそう呼ばれているものに過ぎず、新しくて古い家族の形と愛(なんと手垢にまみれた、謎にみちた、ワイルドカードだろうか)が描かれます。
書き溜めてきた小説 -
Posted by ブクログ
妖艶な女装に身を包んだホモセクシュアルの男性として20世紀を生き、世間を震撼させるような文学作品を世に生み出しながら毀誉褒貶の中でトルーマン・カポーティやアンディ・ウォーホルらとの親交で知られたジュリアン・バトラーの生涯を描いた作品。当時のアメリカやヨーロッパの世相、そして何よりもカポーティなどの多数のアメリカ文学に名を連ねる作家・有名人たちとのスキャンダラスな逸話が面白すぎる。
・・・のだが、ジュリアン・バトラーという作家は実在しない。著者が作り上げた架空の人物である。でありながら、この語り口や実在の人物たちとのエピソードの数々はいかにもすべてが史実のような信憑性を読者に与えるには十分すぎ -
Posted by ブクログ
本編は当事者による回顧録という形でジュリアンバトラーの人物像やその関係性を描き、あとがきは第三者による調査で当事者が語らなかったことを解明して真実を添えるという構成なのかな。
ジュリアンバトラーを裏で支えた人物との共依存や愛憎や破滅的な生活は、何となくイメージしていたものとピッタリ合って、実在する作家や著書も登場するためどこまでがリアルかの境目がわからなくなるが、それがこの本の狙いなのだろうか。アメリカの文学やローマ時代の知識が足りないため理解出来なかった点も多かったのが自分的には悔しい。
今は当時に比べたらLGBTQに理解があるように見える時代だけどこの本の舞台になった時代の方がその本質があ -
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1950年代に同性愛や過激な性描写で話題となったジュリアン・バトラーという作家、彼を支えたパートナーのジョージ・ジョン(アンソニー・アンダーソン)による回顧録。ジュリアン・バトラーを知らなかったが、それでも十分魅力的な作品だった。回顧録は作家が書いているので理路整然としていて本人を知らなくても十分楽しめた。また日本版の著者の熱意も十分に伝わってきて読み応えがあった。世界を揺るがしたジュリアン・バトラーだが、妙に特別視されるわけでなく、弱いところ、強いところがある一人の人間として描写されており、彼を取り巻く人々たちの良い関係性が描かれていた。
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Posted by ブクログ
ナボコフの『セバスチャン・ナイトの真実の生涯』から借りた表題からも分かるように、世に知られた著名人の人生をよく知る語り手が、本当の姿を暴露するというのが主題だ。それでは、ジュリアン・バトラーというのは誰か。アメリカの文学界で、男性の同性愛について初めて書いたのは、ゴア・ヴィダルの『都市と柱』とされているが、ジュリアン・バトラーの『二つの愛』はそれに続く同性愛文学のはしり、とされている。
一九五〇年代のアメリカでは、同性愛について大っぴらに触れることはタブー視されていた。ジュリアン・バトラーのデビュー作も、二十に及ぶアメリカの出版社に拒否され、結局はナボコフの『ロリータ』を出版した、ある種いか -
Posted by ブクログ
あたかも実在した作家のドキュメンタリーっぽい構成で書いたという着想が面白い。実際の実在した人物や出来事をうまく絡ませながら幻の作家をこの世に作り出した作品としては秀作と言ってよい。いかんせん、長い。無駄に長い。しかも小説内で架空の小説の筋書きの説明とかって要る?アレキサンドロスの件あたりはほんと苦痛だった。
ゴーストライターとしてバトラーを支えるジョージの献身な生涯は読みごたえがあった。
実在した人物としてなんの先入観も持たずに読むと長ったらしいのを省けばいい作品だと思う。作中に出てくる数々の本のタイトルにかなり興味を持ったので時間があれば読みたいなぁと思う。