刀剣好きなら楽しい一冊。各刀ごとの逸話が短編として収められていて、それぞれの短編の末尾にはその刀についての著者の所見が記されている。知ってる刀派が出てくればテンションが上がるし、知らないものについても刃文や地鉄の特徴などが細かく記録されているのでとても参考になる。私はそんなに詳しくないので、地景とか砂流しとか分からない単語が結構多くて検索疲れしてしまったけど、、、予備知識があればもっと気軽に楽しめたろうと思う。
編者解説より、著者は泉鏡花や柳田國男と同年代だそうで、どうりで文章が古典的なわけだと合点したが、読みづらいというほどではない。むしろ雰囲気と合っていて良い味を出している。ほとんど昔話を読んでるつもりだったのが、いきなり話者本人から聞き出したものが現れて、それが山女との格闘まで含んでいたものだから驚いた。やはり少し前の日本には妖怪の類が本当に跋扈していたのかもしれない、司馬遼太郎と堀田善衛、宮崎駿との鼎談であったように、暗闇を照らし出す「電気」が広まってから姿を消してしまったのだなあ、と漠然と思いつつ、これらの"大層な"物語を背負う格があるからこその名刀なのだという認識も深まった。
それぞれユニークで面白かったけど、小夜左文字の復讐譚は知っていたにも関わらず改めて文章にされると胸にくるものがあったし、大利根の鬼女話は怖すぎた、DVどころじゃない。辻斬りも多いし物騒。共通しているのは、名工が鍛えた刀には霊威が宿り、物の怪は近寄ることすらできないということ。日本のモノづくり文化の根幹が伺えますね。
■黄牛大奮戦/亀海部
■片思いの梵鐘/卒都婆月山
■虚空に嘲るもの/秋葉長光
■潜み迫る女怪/金丸広正
■呑んで呑まれて/倉敷国路
■仁王尊のごとく/二タ声宝寿
■夜泣石のほとりで/名物小夜左文字
■白猿狩り/白猿
■鬼女狂恋/大利根
■怪猫邪恋/三毛青江
■血を吸う山賊/松尾清光
■螢と名刀/名物螢丸
■怨む黒牛/台覧国俊
■邪神の犠牲/石切真守
■群狼襲来/弦月信国
■妖異大老婆/嫗切国次
■報恩奇談/二ツ岩貞宗
■死霊の応援団/籠釣瓶兼元
■七股妖美人/七股政常
■俳友巣仙/巣仙国広
■富田城怪異の間/初桜光忠
■蛇性の裔/皹三条
■怪奇の按摩/米屋氏房
■辻斬りと怪青年/久保坂祐定
■逆襲の大河童/有馬包国
■藤馬物語/各務綱広
■大蛇両断/吾ケ妻貞宗
■首が飛んでも/猪ケ窟之定