たった一度の出会いを丁寧に綴った作品。
社会での役割と責任に捕らわれ馴らされる人と、束縛を逃れ群れを嫌う人。
愛に落ちた二人のどちらもが大人の常識に従って判断した結果、そこに居るべき人が居ないまま、人生を過ごすことになった悲しい物語。
形は変わっても現実にはよくある話だから、そんな状況とも付き合いな
...続きを読むがら生きていかなくちゃね。
というシンプルなストーリーを、見事なラブ・ロマンスに昇華させた小説。
重要な小道具としてNikon Fが登場する。
作者自身も写真が趣味らしく、表紙の写真は作者の撮影だそうだ。
それが関係しているのかどうか、一冊の写真集を見せられたような読後感でした。
Nikonで撮られた白黒の写真。その写真の隅から隅まで、饒舌に、緻密に、だけど分かりやすく順序立てて語ってくれる。
一点の齟齬も許さない程の正確な記述で、ロバートとフランチェスカの気持ちも行動もしっかりと伝わってくる。
語りすぎちゃうのん?
ま、設定がアルバムを見ながらということもあるし、でも本当はそれは再現映像だし、という多重構成。
小さなワン・テーマをこれほどまでに拡げて組み立てた作者の「構成力」に脱帽。
各パートをこの形式・順番に置くことができた時に、作品として成立したのだと思う。
勉強になりました。
なんだか小説はこう作れ!の見本のように感じた。
例えて言うなら、料理の先生が小さな小麦の塊を叩いて延ばして細く切り、湯がいて味付けをして魚介と合わせて作ってくれた、でも美味しい美味しいパスタかな。