久保田さんの作品は『駅鈴』『氷石』『もえぎ草子』と読んだけど、これが一番いいのでは?と思った。
私が読んだ中では唯一ファンタジー要素のある作品だが、それが久保田さんの中世をリアルに描く力、誠実な物語運びとうまい具合にミックスされてる感じ。
頼光四天王の一人平貞道が、頼光の郞等となるところから話は始ま
...続きを読むる。妖狐葉月を助けてやったことが縁で、貞道と葉月はピンチの時にお互い助け合う約束を交わす。
葉月は、賀茂神社の斎院である幼い尊子姫の女房をしており、斎院は葉月が狐であることを知った上で姉のように慕い、頼っている。幼くして母と別れ、実家に戻ることもままならない斎院を愛しく不憫に思う葉月は、何としても彼女を守ってやりたい、望みを叶えてやりたいと思っている。
葉月の口調は丁寧だがそっけなく、特に女っぽくもなく(私は「彼女」と書いたが、そもそも雌狐であるかも不明。ただ、化けるときは女になる)、ツンデレというよりツンツンという感じで、そうでありながら、言葉や態度の端々から、どんなに斎院のことを愛しているかが伝わってくる。
貞道は腕が立つとはいえ、まだ思慮深さには欠ける若者であり、何度も葉月に助けてもらううちに成長していくのも良い。
今昔物語に出てくる盗賊袴垂れや陰陽師賀茂保憲も出てくるし、頼光四天王のもう一人平季武も、ちょっと軽めだが、いざとなると類い希なる弓の使い手として貞道とともに活躍する。
幼い頃の藤原道長(五の君)もやんちゃな少年として生き生きと描かれている。
これだけキャラが立ってるんだから(二次創作のネタに使えるくらい、アニメ化、マンガ化してもいいくらい)、もっとベタベタに友情、冒険、恋愛を書けば、もっとたくさんの読者を獲得できるのに、それをしないところが久保田さんらしい。挿し絵の佐竹さんもそれを重んじて、わかりやすい美男美女を描いたりしない。誠に上品。
また葉月と貞道が活躍する物語を読みたいなあと思ったけど、久保田さんはそういうこともあんまりしなさそうな気がする。まあ、書いてくれたら嬉しいけど。