長崎丸山遊廓 江戸時代のワンダーランド

長崎丸山遊廓 江戸時代のワンダーランド

1,265円 (税込)

6pt

4.3

10両程の身代金(約100万円)を背負って商売をはじめ、運と実力があれば揚代だけで年間1000万円を超え、プレゼントに至っては一度に数百万円単位で得た。その収入は本人の貯蓄のみならず家族や親戚、出身の地域社会まで潤すことができた。娘たちだけが持っている可能性を生かしたサクセスストーリーが丸山遊女にはついてまわったのである。
長崎は対外貿易港であったが、そこで取引される製品に長崎で生産されたものはなく、また貿易に携わる商人も、先の西鶴の作品にもあったようにもっぱら京大坂の大商人であった。言うなれば長崎は「場所」を提供し、貿易の事務手続きを請け負いその手数料を得るだけで、「商売」の主役ではなかった。手をこまねいているだけでは貿易の「上がり」は長崎住民の頭の上を通りすぎていくだけだった。対外貿易の「上がり」をできるだけ長崎に落とさせる、そこに他の都市の遊廓とは異なった長崎丸山遊廓の存在意義はあった。長崎において遊女が特別な存在とされたのは、なによりもまず、都市長崎があまりにも小さく、あまりにも貧しかったからだった。地場の生産力の不足を補うために都市に貿易の利益を還流させるという重要な役目を担っていたのが遊女たちであった。つまり、遊女は長崎の第一の「商品」だったのだ。
丸山遊女の多くは長崎市中や近郷の貧しい家庭の出身であった。「籠の鳥」として、親元からは切り離され、孤独な生を営むことを余儀なくされていた吉原をはじめとする他の遊廓とは異なって、長崎の場合、ほとんどの遊女は実家と密に連絡をとり、遊女となった後も地域社会の構成員としての意識をもちつづけていた。また奉行所をはじめ、都市をあげて遊女を保護し、嫌な仕事は拒むことも可能だった。長崎の街は一つの運命共同体であり、住民の生活が成り立つようにするためには、他所から訪れた商人が長崎で得た貿易の利益を丸山で揚代や贈物として吸い上げ、そのようにして得た利益を回して貧しい借家人まで潤してゆかなければならなかった。そのような「トリクルダウン」の手段として、丸山遊女の果たす役割はすこぶる大きかった。それゆえ、現代の価値にして数千万円の収入を得る可能性もある遊女は、むしろかならず、長崎市中の出身者でなければならなかったのだ。
本書では、このような視点のもと、丸山遊女が当時の人々からどのように見られていたかについては今日的な視点から早急に判断を下すことを避け、当時の人々の気持ちが想像できる資料をもとにして論じていきたい。

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長崎丸山遊廓 江戸時代のワンダーランド のユーザーレビュー

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感情タグBEST3

    Posted by ブクログ

    先日1995年初版の吉見義明さんの「従軍慰安婦」を読んでいて、「陸軍では、上海派遣軍の岡村寧次参謀副長副参謀長が海軍の慰安所を参考にして、1932年3月から(慰安所の)設置あたった。その回想によれば、上海で日本軍人による強姦事件が発生したので、これを防ぐため長崎県知事に要請して『慰安婦団』を招いたと

    0
    2022年08月24日

    Posted by ブクログ

    江戸吉原に関する本を読むことが多かったが初めて地方の遊郭に関するものを と選んだ。
    丸山のデータや特徴は吉原ものを読んできた自分にとってびっくり。びっくり。またびっくり。
    そこに記されるのは幼い少女が奴隷として売却される、1人1人人間の過酷な記録なので面白がったり驚いたりするだけではこの本を読んだこ

    0
    2023年07月27日

    Posted by ブクログ

    世の中には表もあれば裏もある。歴史もいろいろある。教科書にはまず掲載されないが人間がいれば必ず発生する業界を取り上げている。





    遊郭は女性が自分の性を最大限武器にして男の気分を良くして釣り、お金を儲ける商売だ。大名や豪商がスポンサーになって「推し」になれば、いい金づるになる。有名なのが江戸に

    0
    2022年01月16日

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