Posted by ブクログ
2021年02月06日
これは…何と言うか、タイトルそのままなのだけど、「事件現場清掃人」という恐ろしくも気になる仕事についての話と、サブタイトルの「死と生を看取る者」という、ある意味司祭やお坊さん的立場の人が記したような内容とが織り交じった、墓場と産院と教会とがひとつになったような存在感の本だ。
間違いなく、人は誰もが...続きを読む死ぬ。そして死人は口がない。しかし生者は、何とかして残された物からその死者の声を聞き取ろうとしてしまう。それが、特殊清掃という仕事内容に人々が興味を持ってしまう根本的なきっかけなのではないだろうか。あとは、普段自分が関わることのない世界への単純な好奇心。(私もそうかも。)で、恐らく、この本を手にするきっかけはそれでいい。それでいいから、最初から最後まで読み切ると、その背後に見え隠れする社会的問題や課題への意識が芽生える。良い意味で、一石二鳥。
死に様は人の数だけあるだろうけれど、筆者が特に警鐘を鳴らすのは、金銭面などで追い詰められた人の自死や、様々な事情が重なった孤独死である。人と人の繋がりを希薄化させる現代社会の仕組みや、昨今のコロナ禍の影響で、恐らくそのような死に方の人はこれからもっと増える。果たしてそれは「仕方ないこと」なのか。(筆者の答えは、否だ。正確には、否、と言えるように、自分ができることをしていこうというスタンス。)
パンチの効いた表紙やタイトルから、単純なグロテスク・エンターテイメントを想像している人はちょっと肩透かしを食らうかもしれない。勿論、普段見られない世界をそっと垣間見ているかのような内容は多いし、怖いもの見たさを満たしてくれるような実際の現場の写真や図面も掲載されている。しかし、全体の印象としては、そういった俗っぽさを残しつつも、徐々に、社会や孤独、自分についてなどに向き合うきっかけを与えてくれる要素が強い気がする。
現場写真からは、個人的には、未知のゾワゾワした不穏な空気を感じた。例えば、部屋の主がリストカットして亡くなったユニットバスには不気味な血の痕がベットリ残っているのだが、そういった非日常な要素のすぐ隣に、当人が死ぬ直前まで使っていただろうシャンプーやリンスがきちんと並べてあったりする。日常の合間に、闇は潜んでいるのだ。
誰かがやらねばならない仕事、それ故に、(きっと著者本人はそうは言わないだろうが)尊い仕事、その陰と光を端的に体験させてもらえる一冊だった。