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東京銀座の裏通りにある妾宅で、折竹雪枝がガス中毒死した。事故か自殺か、それとも他殺か――。老練な刑事・小柴と老獪な女中・乃婦、二人の語りが交差し、炙り出される意想外の真相とは。陰影のある文体で人間心理を巧みに描き、澁澤龍彦、種村季弘らに愛された著者による代表作。
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Posted by ブクログ
この著者らしい、人間の心理の綾の奥を密かに覗き見るような一作。刑事と女中の語りで進みミステリー仕立てで牽引力を持たせながら、中年の語り手2人の所々で差し込まれる人生観やそれぞれの登場人物達のものの見方が丁寧に描かれて、昭和三十年代の東京に生きた庶民の息づかいを感じさせる。昨今流行りの「人生を切り開く...続きを読む」「エンパワーメント」系の小説とは真逆の作品だが、ひっそりと傍観者として生きる人々の中にある侮れない芯の部分が陰画のように浮かび上がる筆の運びがとても印象に残った。 堀江敏幸による解説は小説家ならではの視点で読み落としがちなポイントに触れていて、久々に解説らしい解説を読んだ気がした。
怪死があり、警察の捜査も(意外? な真相も)あるのだが、ミステリと言うより、風俗小説の味わい。捜査のディテールも、事件に巻き込まれた人々の心理の機微も、社会派よりもリアルに描写される。ミステリとして読めば、不満も出るが、こう言う物だと思って読めば、案外楽しいかも知れない。
作品紹介を読むと、ガス中毒死による死が事故か自殺か、それとも他殺か、という謎を解き明かしていくものかと思える。 主要な登場人物は、主人と妾、二人の間の子、その家庭教師、三人の女中の7人である。 捜査に当たる刑事と、一人の女中の語りが交差し、少しずつ事実が明らかになっていき、全体は起、承、転...続きを読む、結と進んでいく。 真相は一応明らかになるが、死亡した妾(おくさま)の人物像が、どれだけ彼女と関わりのあった各人から語られても、明確に焦点を結ぶことはないので、わだかまるものが残る。 本作は語り体であり、作者の文章は決して分かりづらいものではないのだが、特に女中の語りは、物事からちょっと引いたスタンスからの冷たい視点を窺わせるもので、作者は一種独特な雰囲気を醸し出して描いている。その雰囲気に酔いしれながら読んでいくのが楽しいのではないだろうか。
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