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Posted by ブクログ
健三は学問によりいち早く「近代」を吸収したが、個人主義の目をもって故郷を眺めたとき、それは「家族」という名の伝統的価値観によって彼を縛るしがらみでしかなかった。また教員という職業から高給取りとみられていた彼は、かつての養家島田を筆頭に親族一同から常に金銭的援助を求められていた。しかし健三の家にも資産がないばかりか家計は火の車なのである。家族や慣習とったしがらみに悩まされ、また金策に苦労する中で健三は妻御住との夫婦関係も悪化させてゆく。二人の関係が冷えるほど、御住は当てつけの如く産まれたばかりの子どもの世話に傾倒する。しかしそんな妻を健三は冷ややかに見てしまう。「家族」というコミュニティが解体されていく時代において、いつかは自分も妻も自立した子どもに見放される運命にあるからである。それは奇しくも自分が今まさに島田を見捨てようとしているのと同じように。最終的に、健三は島田の執拗な金銭の無心に対して手切れ金という形で決着をつけるが、それによりこれまでのしがらみが片付いたとは到底思えないのであった。
「家族」という伝統的価値観から抜け出しきれない健三の葛藤が描かれているが、そこからの脱却を試みた先にあるのは、「お金」に象徴される近代的価値観による新たなしがらみであるという皮肉を感じる作品であった。
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