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侯爵家の息子ヴィヴァルディに見初められたエレナ。
快く思わぬ侯爵夫人は邪悪な修道士を使い、二人を引き裂こうとする。苦境に陥った彼らの運命は――
ゴシック小説の傑作にして探偵小説の源流。『ユドルフォ城の怪奇』に続いて執筆された、著者生前最後の長篇であり最高傑作。半世紀ぶりの新訳成る!
「恥辱ですって!」侯爵夫人は叫んだ。「導師様、貴方は……貴方は……恥辱とおっしゃるのですか……ずいぶん強いお言葉だこと……でも、おっしゃるとおりかもしれません……そしてわたくしたちは、その恥辱に甘んじなければならぬのでしょうか……そんなことに甘んじられるものでしょうか……」
「救済策はありませんな」スケドーニは冷ややかに言った。
「まあ、何ということでしょう……」侯爵夫人は叫んだ。「こんな罪深い結婚を阻止する、いえ、少なくとも罰するような法がないだなんて(…)人の家に土足で入り込んで、その家名に泥を塗る(…)そんな女は、国事犯とほとんど同列の罰を受けて然るべきですわ。何しろ国の一番の支えとなっている一族に害をなしたのですから。そういう女は――」
「ほとんど同列、ではなく、まさに同列の罰を受けるべきです」聴罪師が代わって言った。「そういう女が値するのは――死、あるのみです」(本書より)
アン・ラドクリフ(著)
1764年7月9日、ウィリアム・ウォードとアン・オーツ・ウォードの一人娘としてロンドンに生まれる。陶芸家ジョサイア・ウェッジウッドのパートナーとして有名なトマス・ベントリーに預けられて少女期を過ごす。ゴシック建築やピクチャレスクへの関心、詩人ジェイムズ・トムソンへの傾倒は、この母方の義理の叔父からの影響と考えられる。1787年、急進的な傾向で知られる「ガゼティア」紙の記者として筆を揮ったウィリアム・ラドクリフと結婚。1789年、第一作となる『アスリン城とダンベイン城』を匿名で出版。翌1790年、第二作の『シチリアのロマンス』を同じく匿名で出版。1791年の第三作『森のロマンス』が好評を博す(本書の第二版から著者名が「アン・ラドクリフ」名義となる)。1794年、『ユドルフォ城の怪奇』を発表。この四巻本の長大な恐怖小説は、発売と同時に大評判となった。1796年、『イタリア人 あるいは黒悔悛会の懺悔室』を発表。前作に劣らぬ評価を得るが、本書が生前に発表された最後の小説となる。前年に罹患した胸部の感染症が悪化し、1823年2月7日に逝去。享年58。
三馬 志伸(みんま・しのぶ)(訳)
1959年千葉県生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。同大学大学院文学研究科博士課程単位取得満期退学(文学修士)。英文学者、翻訳家。著書に、Jane Austen In and Out of Context(慶應義塾大学出版会、2012)、編訳書に、ウィルキー・コリンズ、ジョージ・エリオット、メアリ・エリザベス・ブラッドン、マーガレット・オリファント『ヴィクトリア朝怪異譚』(作品社、2018)、訳書に、アン・ラドクリフ『森のロマンス』(作品社、2023)、『ユドルフォ城の怪奇(上・下)』(同、2021)、メアリ・エリザベス・ブラッドン『レイディ・オードリーの秘密』(近代文藝社、2014)などがある。
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