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その町は、地図にはある。誰の記憶にもない。
2013年春。
西川梨恵は、妹の娘・花菜を預かることになった。
震災で父を失い、避難先を転々とするうちに口を閉ざしてしまった小学生の姪。
ふたりが移り住んだのは、新今宮から西成へ向かう途中にある府営住宅「さつき町」だった。
住人は老人と子供しかいない。
市内でここだけが、いつも雨に濡れている。
転校初日、花菜は同級生から二つの約束を告げられる。
ひとりでトイレに行かないこと。
雨の日は外に出ないこと。
破れば「あおむし」が来る——。
その日、花菜はひとりでトイレへ行った。
姪は見えない友達と話しはじめ、
芋虫の絵を描き、どこで覚えたのか『軍艦マーチ』を口ずさむようになる。
そしてもう一つ、この町には大人にだけ課された禁忌があった。
あの歌を、歌ってはならない。
つられて口ずさんだ恋人が消えた。後輩が消えた。
町の元住人・アンジーは、十数年前に息子を失ったまま探し続けていた。
手がかりを追ううち、梨恵は理解する。
この町で起きていることには、はるかに古い出処がある——。
知れば、戻れない。
戦慄のホラー長編『訃。』
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