ネタバレ
Posted by ブクログ
2012年02月29日
先日、フェルメール・センター銀座の「フェルメール光の王国展」に行き、「真珠の首飾りの少女」しか知らなかった私ですが、すっかりフェルメールの絵に魅せられてしまいました。
もっとフェルメールについて知りたいと思い、手にした本。
『フェルメールの静けさの謎を解く』
彼には”静謐の画家”という異名が冠せられ...続きを読むていますが、「なぜフェルメールの絵が静かなのか」という問題に真正面から語られた本は今までなかったそうです。本書はいろいろな切り口から、そこを紐解いていきます。
筆者は「フェルメール美術館」というウェブサイトを運営している藤田令伊氏です。
・フェルメールブルー
当時、身近な自然に存在しない青は高い精神性を表すものとされ、「神々の色」「天空の色」「無限の色」として特別視されていた。
新技術により、希少な鉱物、アズライトやラピスラズリから青の顔料が実現されることとなるが、特にラピスラズリを用いたものはウルトラマリンブルーと呼ばれ、マカライトなどを用いたものの100倍の値段がつき、金とほぼ同等の贅沢な素材であった。
それゆえ、ウルトラマリンブルーはもっぱら聖母マリアにしか使われなかったが、フェルメールはウルトラマリンブルーに異常なまでの執着を持ち、「青衣の女」などの普通の人の服はおろか、椅子などのモノにまで用いていた。
青という色は今でこそ、色彩心理学においては「平静」「永遠」「孤独」「郷愁」といった概念に関連深く「静けさ」そのものであるが、フェルメールは後年の研究を知っていたわけではなく、経験的直感で青の性質を理解していたと考えられる。
しかし、なぜフェルメールはこのような超貴重な材料をまるで暴挙の如く使うことができたのかについてはひとつの謎である。
当初フェルメールは借金をしてまでウルトラマリンブルーを贅沢に使っていたが、その後は恐らく裕福な妻の実家に婿入りすることにより、経済的な援助を受けられるようになったのではないかと、筆者は推理している。
・「多色のなかの青」から「少色のなかの青」へ
作品が描かれた順に「牛乳を注ぐ女」では8色、「窓辺で水差しを持つ女」では4色、「青衣の女」では3色の色が使われているが、色数を減らした中で青を使うことで、青の力を引き出し、「静けさ」を出していたのだろう。
最初の4~5年の絵は多色で青もなく、これはフェルメールの試行錯誤の結果とも推測される。
・塗りつぶし、削除された素材
X線調査により「窓辺で手紙を読む女」のカーテン部分には当初、テーブルに大きなガラス器が置かれており、フェルメールによって最終的に塗りつぶされていることがわかっている。素材を減らすことにより、より「静謐感」を引き出したのであろう。
・「静の中の静」
フェルメールは女性の佇まいにおいても静けさを演出している。「手紙を読む」や「牛乳を注ぐ」などの静かな動作に加え、「うつむき加減」の「伏し目」、「ニュートラルな表情」が静けさを演出している。
文字数の関係上全ては書けませんが、その他、レンブラントなどとは対局の「穏やかな光」「霞む空気」で静けさを演出するフェルメールですが、彼の現実は14人の子供を持ちとても静かとは言えない状況だったとのこと。その現実が彼に「静謐な絵画」を羨望させたのかも知れませんね。
大変わかり易く、面白い本でしたので、フェルメールに興味をお持ちの方は是非。わたしも他のものも読んでみたいと思います。