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ゲームデザイナー・上田文人が手掛ける幻想的な作品たちは、何十年にもわたり世界中で愛されている。 プレイヤーの記憶に深く刻まれている『ICO』『ワンダと巨像』『人喰いの大鷲トリコ』は、どのように生まれたのだろうか。 彼のゲームづくりへの考え方や作品への思い、開発秘話などを伺った数万文字にもおよぶ文章と、 本書に収録している数百点のコンセプトアートの数々から、その世界観を紐解いていく一冊。
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Posted by ブクログ
上田文人三部作の絵コンテや開発背景などが詳しく語られており、非常に面白いが一番衝撃的だったのは、最新作のトリコが2016年リリース。ほぼ10年前…! ICO、ワンダと巨像、人喰いの大鷲トリコ、という自分のゲーム歴の中でも非常に印象深い作品しか出してない上田文人氏の特集本。 上田文人氏のゲーム開発...続きを読むの考え方が、三作どれも一貫して「制約を踏まえて世界観を作っていく」というのが一番印象に残った。 作りたい世界観をなんとか今の技術で実現するのではなく、制約に合うように世界観をいじっていく。例えばPS1やPS2の表現の限界を確認して、やりたいことを絞ってから作っていく。 逆に何の制約もなかったらどんなすごいものができてしまうのか。…いや、逆に制約があるからこそ燃えるのかもしれない。 実際、技術がもうほぼ制限がない今、トリコからそろそろ10年経とうとしているのにまだ次回作が来ないというのは、制約がなくてやりたいこと、できることが際限なく大きくなってしまっているとか… ないか? まあ、次回作が出たら買うので気長に待とう。 ・制約やギミックありき まあともかく、各作品での制約がどう作用したのかも面白かった。 ワンダと巨像は、設定やストーリーより先に巨像戦ありきだった。巨像戦がキモだったから、まずそれをフィールドに配置してから世界を作っていった。というのも、シームレスに遊べること、PS2の描画性能の限界が先にあったから。16体の巨像を倒すことで死者を生き返らせるというストーリーが先ではなく、とにかく巨像を倒す目的だけが先にあったって、面白すぎる。ギミックのためにゲーム全体を作ってるタイプ。 やりたいことよりもまず制約を優先して作ってるのがプロだなぁ。 そしてトリコでも、世界設定が制約から来ている。ただ、今回は逆にPS4の性能が良すぎて、マテリアル表現がきれいすぎて、元々やろうとしてた世界観を描くと違和感があるため、ロストテクノロジーを使う王国、となったらしい。 ・ゲーム制作方法 「ほかには、既存のゲームのお約束や、ゲーム独自の表現を疑うこと。これらも常に意識しています。ゲームの中にあるさまざまな要素に対して、本当に必要なのか、その表現方法でいいのか、といったことです。」 ほんとに、世のゲーム開発者も同じように考えて欲しい。この要素いるぅ?って色んなゲームで思う。プレイ時間伸ばしという目的では正しいかも知れないけど、遊んでて楽しくないんだが?みたいなのが多すぎる。 その点、上田文人作品はやれることがミニマルだし、UIもスッキリしすぎているし、むしろ当たり前と思われている要素すら削っている。でも遊んでて分からんなとか、だるいなこの要素とかなった記憶がない。 …いや、もう遊んだのが数年前だし、クリアして楽しかったー、で終わってるから記憶が薄まってるだけという可能性は全然あるけど。 「ゲーム都合の、見えないコリジョンで沖に行けなくするのではなく、打ち寄せる波によって押し返されて沖に出られないように見せるため、波の間隔と角度を調整しました。」 こういう細かい気遣いが溜まらないよなー。しかも波エリアなんてエンディングシーンだけで出てくるエリアで、わざわざ海に入ろうとするプレイヤーもそうそういないだろうに。 ・ICO、NICO、TRICO ワンダと巨像はプロジェクトNICO、トリコはプロジェクトTRICOだったのか。全部ICOなんだ。じゃあ次は…YOICOで良い子が主人公かな。 という感じに、ゲームをどう作ったかという話だけではなく、地味に小ネタも載っていて、ワンダと巨像のエンディングで描かれる空中庭園、実は周回プレイして握力を限界突破させればクリア前に到達できるらしい。そこまでやり込んだかなぁ… たぶんやってないな。 また、ICOのときからムービーシーンの絵コンテが全部残っていて、それの一部が載っている。これは全部上田さんが作ってるらしい。最後のインタビューで、実はやりたくないと言ってはいるけど。なんか、ちゃんとした絵を描ける人はもちろんすごいと思うが、こういうラフ画を描ける人もかなり専門技術をバリバリ感じて尊敬する。単純な線なのに表現したいことがはっきりと分かる。 ラフだとトリコがネズミみたいに見えるが、それでもかわいい。
3作品ともプレイ済み・クリア済みなので、ストーリーやら当時の思い出やらがよみがえり、読んでいる最中何度も感極まってしまった。 そして各作品にどれだけのこだわりと想いを込められていたのか、それを知って、改めて上田さんの凄さに畏れに近い気持ちを抱くという。 値段的に決して安くはない本なのだが(あの分厚さ...続きを読むと大きさでフルカラーなので致し方なし)あの世界観に惹かれた人は必読の本だと思う。 きっと上田さん作品の魅力を再認識し、あのゲームの世界へ戻りたくなることだろう。 少女の手を引き、巨像に挑み、そして人喰い大鷲と心通わせたあの世界への扉を開いてくれた巨匠に感謝を抱きながら。
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