Posted by ブクログ
2011年08月09日
“「姚朧月。俺の顔なんか見ないで、前を見てろよ。いい感じだぞ」
「......!」
意味深な言いように妙に焦りを煽られ、朧月が顔を前に振り向けると。
(あ——)
怖いくらい開けた景色が、そこに広がっていた。やわらかな風が袖や髪をさらう。
いつのまにか関門を抜け、州都の外に出ていたようだ。
澄んだ青空...続きを読む。陽光にきらめく、一面の菜の花畑。四方から押し寄せる春の香り。
耳をすませば、さかんに働く蜂の羽音がかすかに聞こえてきた。
「......本格的に気分が悪くなってきました」
「なんでだ!?」
だれもが心癒されるだろう春の景色なのだが、朧月は逆にどんよりと沈んでしまう。
「だって、ここが本当に外で......どんどん邸が遠ざかっていると思ったら、すごく憂鬱に」
「おまえってやつは」
あきれたような半眼になる蒼刻を無視して、朧月の思考はどんどん落ちこむ。
(......皇宮も皇都も、絶対に人がたくさんいるのよね)
(これからの旅路だって、きっと知らない人ばかりだろうし......やっぱりだめ、絶対無理!)”
ひきこもりでどこまでも後ろ向き思考の朧月だけど、蒼刻に反発したり人を助けるために頑張ったりする意思が良いなー。
素敵なキャラの星彩の過去が気になる。
カバー下の朧月可愛い。
“幽鬼を見る力のせいで、幼い頃から不吉がられ、いじめられた経験は豊富なので、いじめっ子という人種には詳しいつもりだ。この青年はそうではない。しかし、幼い頃から唯一朧月を理解し、庇護してくれた兄とも違う。
(どのくらい心を開いてもいいのかな......)
そんなふうに悩みながら、朧月は、再び蒼刻に抱かれて馬上の人となった。
——問題の紅梅宮は、天香宮から馬で半刻ほど離れたところにあるという。
途方もなく広大な敷地だ。
馬で移動しなければ違う建物に行けないなんて、朧月にはついていけない世界である。
天香宮から離れるにつれて人気は減り、緑なす道の静けさが身を包んだ。
一目がないから恋人のフリは忘れていいと言われ、朧月は少しだけ肩の力を抜く。
「ここは、幽鬼しかいなくて、いい場所ですね......」
「おまえはまたそれかよ。俺がいるってことを忘れてないか?」
「いえ、忘れてるわけではないのですが......蒼刻さんは、もう大丈夫ですから」
「......そうなのか?」
「はい。ついビクッとはしてしまいますけれど......そう、たとえるなら、激辛だけどおいしい麻婆豆腐みたいな」
「結局まだビビッてはいるんだな?しかも、その喩えはなんだ」
褒め言葉のつもりなのはわかるが。
(でも一応、俺のことを信用はしてる——っていうことか?)
朧月は意識してないようだが、蒼刻を見上げる表情は、以前よりも無防備だ。
出逢ったばかりの頃は、ふれただけで砕け落ちそうなほど張り詰めていたのに。
——それはいい変化なのだが、同時に妙に気恥ずかしくもあった。”