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「最後のもっとも激しい戦いが始まるのだ.愛するもの同士が,首を絞めあう戦いがな.」ジークフリート,ブリュンヒルト,トロイのハーゲン….運命のいたずらか,王たちの嫁取り騒動は英雄の暗殺,そして骨肉相食む復讐に至る.中世ドイツの英雄叙事詩をリアリズムの悲劇へ昇華させた,ヘッベル(1813-63)晩年の最高傑作.
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Posted by ブクログ
非常にドイツ的。ナチス政権下でも多く上演された戯曲。ニーベルンゲンというのは聞いたことがあったが、こんな復讐の話だとは。
ニーベルングの歌を下に19世紀ドイツの詩人ヘッベルが作成した戯曲。 元ネタのニーベルングの歌に比べて登場人物の感情や葛藤がより色濃く描かれている。 特に主人公とも言えるクリエムヒルト、当初はおぼこい娘であったのが、新婚の幸せと不安がないまぜになった新妻、夫を殺された怒りと悲しみに暮れる未亡人、そして...続きを読む復讐心が原動力となり最後に爆発するが、母としての一面も垣間見せる。そんな人物を描き出されているのが素晴らしい。 なお、解説も作者のヘッベル、及び当作品の扱いについて触れられており、十分読み応えがある。
■『戯曲 ニーベルンゲン』から学ぶ「魅力的な悪役」の作り方 面白いとされる作品は悪役が魅力的に描かれてる場合が多いと思う。『戯曲 ニーベルンゲン』はそれが分かりやすいと思うので、自分なりにレビューしていく。この作品の悪役キャラはハーゲン。ジークフリートを謀殺しクリエムヒルトと敵対する人物。この視点...続きを読むからのニーベルンゲン伝説の感想はなさそうなので。 ・敵を敵とも思わない大胆不敵な言動 悪役を作り出すこと自体はさして難しくない、ただ魅せ方が難しい。簡単なのは悪役と敵対してる人物に対して悪役が罵倒したり嘲笑したりすること。しかしこれは簡単な分悪役に魅力が出ない、むしろ器が小さい、小物に見える。では『戯曲 ニーベルンゲン』のハーゲンはどうかというと、己の敵対者に対して敵を敵とも思わない大胆不敵な台詞が多い。悪役に必要なのは、罵倒の多さや悪口の語彙よりこっちだと思う。むしろハーゲンの敵対者の方がハーゲンを罵倒してくるが、それに乗せられず、激怒もせず、自分は余裕を持っていて相手の罵倒の上をいく切り返しが多い。これが読んでいて小気味がいい、悪役なのに。すぐに悪態をついたり怒ったりする悪役がは心に余裕がないように見える。 行動の面でも余裕がある。例えばフンの都で王妃となったクリエムヒルトが座っているハーゲンに近づいてくる。当然起立すべきだが、大胆不敵にも、いや傲岸不遜にも座ったままだ。突然起立して「こいつ弱腰だな」と思われたくないという己の信念を優先する。魅力的な悪役というのは、悪役なりのブレない芯を持ってることと思う。またそこでの二人の会話も、元夫の敵討ちのためクリエムヒルトは大真面目で怒るが、ハーゲンはそんな怒りなどどこ吹く風で飄々としている様が対照的だ。 ・悪知恵がある、ずる賢い 魅力的な悪役は策略が上手い。主人公すら手玉に取って謀殺してしまう。この作品の陰謀はたいていハーゲンの発明。ブリュンヒルドを懲らしめる、クリエムヒルトから弱点を聞き出す、ジークフリート謀殺、クリエムヒルトに渡る前にニーベルンゲンの宝を捨てる、クリエムヒルトの再婚に危機感をかぎつけ反対(失敗したが)、ニーベルンゲンの宝の在処を永遠に不明にする、などはハーゲンの発案で、王であるグンターはそれに乗っかってるだけだ。ジークフリートやクリエムヒルトを説得する際の口八丁は見事。 ・愚かな面もある、侠気がある ただ完璧すぎても魅力が生まれないのが難しいところ。愚かな面も一つ欲しい。それは、たとえ死が迫っていても己の信念に殉ずるという面。そもそも殺されることは分かっていたんだから、フン族の国になど行かなければよかった。けどハーゲンはのこのこと出かけて行った。妖精のお告げが出ても、死の罠にかかろうと運命よ来るなら来い、地獄へ道ずれにしてくれる、と全く怯む様子がない。フンの都でも、死者の舟に乗ってしまったなら、もう後はやりたい放題やるだけだと堂々と開き直る。実際その後大暴れするが、このようにある意味愚直で、信念を曲げない姿が魅力的に映る。 ・実力がある やっぱり悪役は実力が伴ってて欲しい。素で強くあってほしい。これまでの点は本人に実力があってこそだと思う。ハーゲンの実力は、千人のフンの兵士に突撃させようとしたとき、クリエムヒルトがそんなのハーゲン一人で片づけてしまうと心配になるぐらいの実力。ジークフリートから名剣バルムングを継承し、ハーゲンがふるうたびに七色の光が輝き稲妻が走る。ダークヒーローっぷりがすごい。リューディガーが来た時ギーゼルヘアは和睦の使者だと勘違いし安堵したが、ハーゲンは最後の最も激しい戦いが始まると喝破した。戦いが終わることに安堵するより、まだ戦えると喜ぶ強者の狂気に満ちてていい。書かれてはないけどこのシーンのハーゲンは笑みを浮かべてて欲しい。 ・最後は斃される でも悪役はこうなる。しかしハーゲンは最後の最後まで大胆不敵だった。ハーゲンと対をなす勇者ディートリヒに負け、お縄となったハーゲンとグンター。この捕まったシーンでもハーゲンが冗談をやっている。 グンター:腰を下ろさせてくれ。どこかに椅子はないか。 ハーゲン:(四つん這いになって)王よ、ここだ。愛用の椅子は。 この期に及んでこんなことやってるのは大胆不敵すぎるし、最後まで心の余裕を見せた。しかも「ニーベルンゲンの宝の在処を永遠に不明にする」罠を仕掛け、ハーゲンが死んでクリエムヒルトの復讐が成就すると同時にクリエムヒルトの敗北も確定するように仕向ける策士っぷりを披露!ただでは死なないハーゲンは最後まで魅力ある悪役だった。 訳者の香田芳樹氏は、原作である叙事詩『ニーベルンゲンの歌』が中世の作品なので、個性という観念がまだなくて、ヘッベルが戯曲にする際これに苦労したと語る。けど叙事詩『ニーベルンゲンの歌』の中でハーゲン(ハゲネ)だけは既に個性があったように思える。クリエムヒルトが来ても起立しなかった豪胆さだったり、クリエムヒルトの憎悪を理解したうえで、復讐がしたいならすればいい、ジークフリートを殺したの俺だと臆面もなく認めるのも、ニーベルンゲンの宝の在処を永遠に不明にする罠も叙事詩の方にすでに書かれていた。この時点でハーゲンだけはやたらとキャラが立ってるように思えるが、どうでしょうか。
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戯曲 ニーベルンゲン
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