引き締まった構成、ウエットな色調、臨場感豊かな活劇、淡いロマンス、闘う男の武骨なストイシズム。繰り返しとなるが、本作は長い模索期を経てヒギンズが辿り着いた集大成だ。再読する度に新たな輝きを放つ。人生経験を経るほどに味わいが増す。つまり、大人の小説なのである。とにかく、痺れる。この芳醇な香りを放つ本作に魅了されない読み手がいるのだろうか。単純に冒険小説、ハードボイルドと括ることなど出来ない。原題「A Prayer for the Dying」の直訳となる「死にゆく者への祈り」という哀切なカタストロフィーを感じる邦題の語感も素晴らしい。優れた作品は、内容は勿論のこと、記憶に残るタイトルを持っている。