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バッサムはパレスチナ人。ラミはイスラエル人。二人の住む世界は隔絶していた。だが、バッサムの娘がゴム弾の犠牲になり、ラミの娘が自殺テロに巻き込まれて亡くなったとき、二人の男の人生が交錯し始める――。実話に基づいて描かれる中東和平版千夜一夜物語
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Posted by ブクログ
ノンフィクションでありながら、フィクションでもあるというハイブリッドフィクションという試みで語られる本作。 1000以上の細かな断章によってパレスチナ人であるバッサム・アラミンとイスラエル人のラミ・エルハナンの人生が語られていく。 2人の共通点は子どもを失ったということ。 1997年、イスラエル人の...続きを読むラミ・エルハナンの13歳の娘スマダーはパレスチナ人による自爆テロで娘が巻き込まれ亡くなってしまう。 それから10年後、パレスチナ人のバッサムも10歳の娘アビールを失ってしまう。イスラエル人兵士がお菓子を買いに来たアビールの手に武器が握られていると勘違いして頭部をゴム弾で撃ったのだった。 2人は共に怒りを抱きもするのだがイスラエル人、パレスチナ人関係なく子を失った『親の会』なるものに参加し、共に自らの体験を語っていく。2人はその後、様々な場所に呼ばれるようになる。 作者はアイルランド人作家のコラム・マッキャン。 本書は批判もされており、特にパレスチナの苦難を美談化しているという批判は多かったという。 しかし、それでも本書は一面的ではない。そこで暮らす人々の現実を複雑さをもって語っている。力強く、かつ美しい作品であった。 特に中盤に差し込まれるラミ・エルハナンとバッサム・アラミンそれぞれが実際に語った講演の内容は特に素晴らしかった。 本書が出版されたのは2020年2月で、イスラエルによるパレスチナへの攻撃が激化する前だ。 バッサム・アラミンとラミ・エルナハンのその後はどうなったのか気になり調べると、2人は現在もさまざまなイベントで話しているようだ。 対立が激しくなったあの出来事以降、より精力的に発言の場に登壇しているとのこと。
読むべき本。まずはそれ。 本作品の内容と縁のある「千夜一夜物語」になずらえるように、1001の断章から構成されている。 イスラエル軍兵士に娘を殺されたパレスチナ人のバッサムと、パレスチナ人の自爆テロの巻き添えで娘を殺されたイスラエル人のラミ。 お互いを憎んで然るべき二人が、手を取り合い、平和を説く...続きを読む。説き続ける。世界が変わるまで。 そんな彼らを描いた作品。 1001の断片は、数ページにわたることもあれば、1行で終わるものもある。 それぞれはジグソーパズルのピースのようで、一つの短い断章から連想するようにいくつかの断章が続く。 そして一つの物語としてのまとまりを作る。 パズル中央には、決して癒えないバッサムとラミの悲しみが存在する。 早い段階で、その真ん中のピースたちがうまる一方、別の場所では、それぞれの市民が、それぞれを憎むような描写がかたられ、あるいは一方でそれぞれの市民が理解し合おうとするピースが表れてくる。 それぞれの悲しみ、それぞれの事情。被害者がさらなる被害者を生み、被害者は加害者にもなる事情。 ピースのまとまりを繋ぐかのように時折あらわれる「偏見をやめよ」という断章。 そして、1001のピースがすべて繋がり完成した際に見えてくる、希望。 これはね、すごい。 少なくとも私は、イスラエルはどちらかというと「被害者」の側だと思っていた。 これはまぎれもなく偏見で、私がニュースなどから取り入れる情報を都合よく解釈した結果生まれていたもの。 でも実際はそんなシンプルな構図ではなく、そしてよくよく考えてみれば、世の中にはそんなシンプルなものなど存在しないことに気がつかせてくれるのが本作。 全員が、怒りも悲しみもする人間であるということに気がつかせてくれる。 そしてそれを解決するのが怒りにまかせた暴力ではないということに気がつかせてくれる。 この物語は、読まなくてはいけないと思う。 一つ一つの断章は読みやすいものの、連想で話が飛んだりするから最初は読みづらいと思う。 でも少し我慢して、枠組みが見えてきたら、ジグソーパズルと同じでうまく空間が埋まっていくから。 700ページ近くあるから長いんだけど、これを「長い、読めない」と言ってしまうのはすごく危険な気がする。 これを「長い、読めない」といって、都合のいいことだけを簡単に取り入れた先にあるのが偏見だから。 繰り返すけど、すごい。 読むべき本。
娘を失った実在のイスラエル人とパレスチナ人を主人公とした小説。 二人は子供をなくした親が入る「親の会」の会員として深い友情で結ばれており、各地でのスピーチなどの二人の活動/言動が主軸として描かれる。 二人は復讐や恨みを越えて、「話し合わなければ終わらない」をモットーに世界各地で講演を続けている共...続きを読む存を聴衆に訴える。 本の構成としては、1001の断章で構成されており、一文だけ、写真だけの章もあれば、数ページに渡る部分もある。主人公二人のことだけでなく、歴史や渡り鳥の話、ミッテランの食事の話など一見脈絡のない事柄が次第に結び合わさっていく 感想としては、途中で出てきた「無知は罪である」という言葉が印象に残った。 二人が人々に語りかけるのは知ってほしいからであり、我々はそれを聞く、知る必要があると思う。知ることは知の第一歩であり、そのためには知らせることが必要であり、知があるからこそ人間は様々な解決を図ろうとするのではないか。 当初、2023/10のイスラエルとパレスチナの出来事(これを戦争と呼んでいいのか紛争というべきなのか分からないので「出来事」とする)以前に購入/積読だったが、この「出来事」を機に読んだ。 正直、パレスチナ問題は頭/知識では状況はなんとなく把握できても、真の理解できないが、縁遠いことが逆に中立の立場からの理解を試みることはできると思う(理解した上で感情を伴っての支持はまた別)。あえて感情移入しないようにして本書を読んだ。パレスチナ問題についてのパレスチナ人の実情やイスラエル人の思い、同じ子を持つ親としての思いなど情報量が多く、考えがまとめきれていない。ただ、甘っちょろいことは承知の上で、直近のこの出来事が早く収束してくれることを心から祈る。 あとはあとがきにあった「親の会」「平和の戦士」「テロス」「ナラティブ4」への寄付も。同じ世界に暮らす人々が少しでも平穏に暮らすことを祈る。
子を亡くした市井の人々のパレスチナ問題への取り組みは対話すること、そして他者へ物語ること。 様々なエピソードを交えながら、断片的に語られる1001の物語。 一面を囲う壁の鉄条網の上に羽ばたく鳥の中、裏表紙を開いたところで、唯一のモノクロではない赤い風船が宙を舞う本のカバーイラストに、何かを感じざ...続きを読むるを得ない。
星6つ、いや7つでも足りないくらいだ。 政治史、外交史では捉えられない空気を体験できる稀有な書。アイルランド出身でアメリカ在住の作者は、パレスチナ問題の当事者カナファーニの「ハイファ…」が訴えかけるのとは全く別の地平を視界に入れている。もはや政治的なもの一切が信用できないこの世界を動かすためには、こ...続きを読むこで書かれていること、あの二人がやろうとしていることが、多くの人たちの共感を得ておおきなムーブメントを作るしかないことを作者は訴えている。 季節ごとに渡りを繰り返す鳥たちの世界にに境界はなく、鳴き声は様々だが、そこには話すことでわかりあえる相互理解がある。
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コラムマッキャン
栩木玲子
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