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失踪した父を追う青年、冥府に彷徨いこんだ男と禁忌を破った男、青に溺れる師弟、蠢く与那国蚕――愛と狂気の世界へといざなう十の物語。現代短歌の巨星による傑作短篇集、ついに文庫化。
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Posted by ブクログ
男たちの秘め事と、それを嗅ぎつけた女たちの策略。前衛短歌の巨匠がその濃密な筆力を尽くして築き上げた、男と男の秘密と破滅の世界に浸る短篇集。 『十二神将変』復刊に続いて、『紺青のわかれ』文庫化、ありがとう!旧仮名遣いは変わらずだけど、新漢字になったおかげでずいぶん読みやすくなった。芸術の造詣深く、...続きを読む料理、ファッション、花からインテリアまで拘り抜く塚本好みにきっちりと設えた城のような文体は一見とっつきにくいけど、鏡花を崩したような講談調のリズムにのって意外とするする読める。 階段状にタイトルが一文字ずつ長くなっていく作品たちはほぼ執筆順に並べられていて、読み進むごとにクオリティが上がり面白くなっていく。表題作「紺青のわかれ」は、連歌会での粋な会話が実作の歌と共にさらさらと描写され、本職の優雅さを見せつけられる。短歌や詩も嗜む小説家が作品に入れ込む類いとは格が違う、ガチの短歌界のドンが詠んでいる凄みを感じられる。 前半の作で好きなのは「冥府燦爛」。地下街の最奥にあるレコード屋のさらに地下へ潜ると、そこには地上の街のネガのような死者の国が広がっている、という〈架空の都市〉もの。映った人の心まで見通せるテレビ、服が透ける姿見、いつまでも満開で枯れることのない花々など、塚本流ネクロポリスのディテールがとにかく楽しい。珈琲屋のインテリアとカップの色のコントラストまできっちり絵画的に描写しきるのがらしくて最高。死者の食べ物には味だけがあって満腹感がなく、「聴覚や視覚とほとんど変わらぬ抽象的な享楽のメディア」になるという設定が、ネクロポリスの案内人がレコード屋の店主なのと呼応していて面白かった。なんとなく、三島や乱歩の顔も浮かぶ秀作。 後半では「父さん鵞鳥嬉遊曲集」の「数学」が、もろに塚本短歌の人工的な頽廃世界で好き!要素がありすぎてシュールギャグみたいになってるのが味。寺山っぽさもある。固く見えてけっこうユーモアがあり、「朝顔に我は飯食ふ男哉」に登場する青垣岬の経歴とかも盛り盛りすぎて笑っちゃう。中二病という言葉を塚本に使うのはあんまりだから、なんて言ったらいいんだろうな……。「秋鶯囀」の〈蒼弥撒〉の描写も映像を思い浮かべるとちょっと可笑しいし、「見よ眠れる船を」の爆発オチも面白くなっちゃう。半分狙って書いていると思うけど、半分は真面目なのが可笑しさを加速させている。 全体を通してテーマは婚姻制度で縛りきれない秘め事としての男性同性愛。塚本の手にかかると、女が惚れて結婚した男は例外なく親族の男と関係を持ち、一族郎党が揃って秘密を共有するのが運命付けられているかのようだ。妻の目の前で堂々と不倫しておいて被害者ぶんなという感じなのだが、必ず復讐が果たされるので痛快でもある。 勿論、毎回復讐者の役割に女をあてがうのはミソジナスな手つきではあるのだが、この人の場合、女を馬鹿にしているということはなくて、むしろ策略家として本当に恐れている。しかも、小説にミステリーの趣向を凝らすのが好きなもんだから、だんだんと愛憎発生装置じみてくる〈男たちの秘密〉より、彼らを罠に陥れる〈復讐者としての女〉たちのほうが前面にでて生き生きと動き始めてしまう。そこにむしろ小気味良さがあり、記号的に美しく描かれる若い男たちより、女性キャラクターのほうが個性豊かで魅力的だと思えるくらいだ。 塚本邦雄の世界は、耽美の一言で片付けるにはこだわりの強すぎる癖のある世界だと思う。澁澤は文章家はスタイリストであるべきだと言ったけれど、言語という石を磨いて第一級の芸術品をつくりだす短歌の世界で頂点に立った塚本は、まさにトップスタイリストだろう。そんな人の超絶技巧で彫琢された人工楽園にどっぷりと浸るのがたまらない人間には、禁断の蜜のような小説たちだ。今後も小説や歌集が文庫化されていきますように!
筋など書いても虚しいばかり。いくら書いても、物語の肝心の所は見えてこない。実際、筋だけ取り上げれば、よくある話をひねりもなく展開しているだけと言えなくもない。細部に宿るタイプと言えば簡単だが、それも微妙に違う気がする。多くの話に筋から見て不要と思える逸脱がダラダラとあって、それが奇妙に魅力的なのが困...続きを読むる。いや、こちらが筋と思っているものなど、元から筋ではないのかも知れないが。
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紺青のわかれ
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