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かつて炭鉱で栄えた離島で、小学校の養護教諭であるセイは、画家の夫と暮らしている。奔放な同僚の女教師、島の主のような老婆、無邪気な子供たち。平穏で満ち足りた日々。ある日新任教師として赴任してきた石和の存在が、セイの心を揺さぶる。彼に惹かれていく──夫を愛しているのに。もうその先がない「切羽」へ向かって。直木賞を受賞した繊細で官能的な大人のための恋愛長編。
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Posted by ブクログ
最近、ミステリーのように筋立ての妙で読者をひっぱる物語よりも、文章それ自体の力によって、ゆっくりと歩ませてくれる種類の小説に強くひかれる。在るということ、それ自体が発する力を受けとめる緊張感をもった器のような、そんな小説だ。 九州の小さな離島の、わずか一年間の物語である。眼に見えるような変化はほとん...続きを読むど起きない。ただ、ひとりの男がやってきて、いつのまにかいなくなっただけ。しかしその、何もないように見えて何でもある島の生活は、たとえば、セイの毎日を満たす食べものを通して、こんなふうに描きだされる。 「こればっかりは島で採れるとが一番」と義父がいう、アオサのおつゆ。から揚げにしようか、さっと煮ようか、叩きもいい、と考えながら市場で買う、とてもきれいな小アジの一盛り。男の親指ほどのミミ竹を採って、その場で味噌をとかしてつくる茸汁。そこで採れる食べ物をていねいに食べる、その一年を通した描写があるからこそ、何かをあきらめたわけでもなく、強がりでも倦んでいるのでもない、「島の女」として、この男の妻として生きていくことを選んだセイの姿が、それでもなお、先の見えない「切羽」へと手を延ばそうとする心のひたむきさとともに、くっきりと像を結ぶのではないだろうか。 傍目に何もないように見える日常を生きることは、けっして何かをあきらめることと同義ではない。その日の食事をていねいにつくり食べることは、たぶん、空気のなかにひそむささやかな季節の変化、エロスの信号を感じ取ることと通じるのだ。たとえば、夫がはじめて「ぞんざいさと親密さを織り交ぜて」「あんた」と自分のことを呼んだことに気がつくこと。
日常の風合いを楽しむ小説
特に事件は起こらないありふれた日常の機敏を描くのが上手で、主人公の気持ちの変化を丁寧に言葉にしていると思います。そういえば私自身もちょっとした事で気分が上がったり、下がったりする事があると改めて自分に置き換えて考えたりしました。表現の詩的な感じもとても素敵でした。不思議な存在感の石和に作者が託したも...続きを読むのは何だったのか、考えながら読み進めていき、最後まで謎のままで読み終えました。主人公が子供の時に見たミシルシの象徴が石和かもしれません。有って無いようなもの、あるいは無くて有るようなもの、影または気配の象徴かもしれないと思いました。
第139回直木賞受賞作。 離島の小学校の養護教諭の麻生セイ31歳がみた、1年間の島の様々な人間模様。 セイは島の診療所の医者だった父の娘で、一度は東京に出たこともありますが、今は両親は亡くなって、画家である幼ななじみの三歳年上の夫の陽介と二人で暮らしています。 島で一つきりの学校である小学校に勤め...続きを読むています。 同僚の教師月江は、生まれも育ちも東京ですが、五年前から島にいます。月江は独身ですが、妻のある愛人が本土にいて、本土さんと呼ばれるその人は時々、島に月江に会いにやってきます。そのロマンスは島民、全部が知っています。 小学校の生徒は9人で、教師は他に校長先生と教頭先生だけです。 そこへ、新任の音楽教師、石和聡が赴任してきて、セイも心がざわついてきます。 90才の島の老嬢、しずかさんにはセイの心の内を見透かされたようなことを言われて落ち着きません。 小さな島の何事もない日常だけれど、石和が現れて少しずつ変化していく様子が描かれていきます。 島ののんびりとした空気、小学校の生徒たちが石和のピアノに合わせて歌っている場面など情景が鮮やかに浮かんできました。 しずかや、夫の陽介も存在感があり淡々とした一連の出来事もはっきりとその空気感がみえてくるようなしみじみとした作品でした。 大きな事件もありませんが、平易な文章で情感がありました。
淡く美しい小説。 夫の描く絵、島の景色、人々のありよう。 穏やかであたたかい、ある意味なまぬるいような 景色のなかにやってきた石和という人。 ざわめきが、ゆっくりと穏やかな景色を、 空気を乱していく。 切羽とは、トンネルを掘っていくいちばん先。 トンネルがつながるとなくなってしまう。 いつか喪...続きを読むわれてしまうもの。 喪ったことで美しさがいつまでものこるもの。 書かれないことで、心にのこる、 そんな淡い美しさがこの小説の印象。
・ 日々の暮らしの中で、 切羽詰まる、追い詰められ方は何度か味わっているけれど、ルーツは「切羽(きりは)」だとは知らなかったし、そもそも、切羽(きりは)」という言葉すら知らなかった。 ・ 山田詠美さんが解説。 ・ 抑制的で読者の想像に委ねている描写。 わたしは好き。 書かない言葉もあるという美しさも...続きを読むあると思うから。 ・ 淡い、大人の恋愛。 ・
激しいドロドロはなく、淡いのだけど妙にエロチックて、しかも濡れ場がないという不思議な本でした。島に赴任してきた独身教師にそこはかとなく惹かれていく主人公。夫の事は愛しているのに後ろめたい感情が時折頭をもたげるのであります。僕は性格的に夫側の性格なので、奥さん浮気したらいけませんよと念じながら読んでい...続きを読むました。
主人公・麻生セイ、夫・陽介。セイが惹かれていく石和聡。官能的な視覚的表現はないものの、セイが心惹かれていく様子が描かれていて、むしろそこが妙にエロティック。同僚の奔放な月江と不倫相手の本土さん(結局最後まで名前は出てこなかった)、近所に住むしずかばあちゃんもいい。(ちょっと寂しいけど)
つながらないことで、確かにつながっていた。 セイにとっては夫のほうが、石和にとっては月江のほうが、近くにいるはずなのに。 書かれていないふたりの空白にはどんな物語があったのだろう。 裏表紙の解説からどんななまめかしい話なのかと思っていたけれど、艶っぽく、瑞々しい反面、画家が描くグレーの色彩に覆われ...続きを読むたような、静的なエロスを感じる良作でした。
心の不倫の話。 事実としては何も起こらない。 穏やかでゆったりだけど ずっと薄暗いというか渋い色の風景。
文章がきれいだなと読み始めてすぐ感じました。 これでもか!と書き込まれた文章ではないからか 素直に心に響く。 恋愛の始まりって、「あ、素敵」じゃなくて、 「何この人?」という反感に近いものだったりすること、 お互いが惹かれあったときは、言葉は要らないこと・・・ こういう話を自分も書きたかったのか...続きを読むも しれないなぁ。
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