初読。イラク戦争を舞台にした戦争/青春小説である。イラク・フセイン政権との湾岸戦争で米軍は被害を殆ど出さずに勝利した。物量と科学力を背景にした湾岸戦争はコンピューター制御による大規模な空爆を中心とした現代的戦争だった。その火種は彼我の戦力差への絶望感を産み、イスラーム戦士を攻撃の対象を軍事目標から民
...続きを読む間人へと転換したテロリズムに走らせた。それに応じたイラク戦争は大規模な地上軍を展開し、さながらベトナム戦争を想起させる泥沼化の様相を呈した。動員された兵士は、敵味方の区別がつかないゲリラ戦に苦しみ、帰国後は後遺症による現実社会への不適応に苦しんだ。イラク戦争に従軍した作者はイラク戦争を描くにあたり、かつてのベトナム戦争文学を意識的に模している。作者の分身である主人公の青年バートルにとって「国家/家」とは「父」が不在の不安定な存在であり、それが彼個人の存在に不安定さの影を落としていた。彼は自ら戦争の大義を、ひたすらに初年兵のマーフィを生きて祖国に戻すことに見出すが、マーフィーは過酷な戦場で次第に精神的に消耗してゆく。