メルボルンでジャーナリストとして働くキーは、5歳下の弟が亡くなったことを知り、実家に帰省する。
幼い頃にベトナムから両親とともに難民として渡ってきたキーと違って、成績優秀で大人しく"いい子"の弟が、何者かに殴り殺されたということが信じられず、警察の説明も同級生も教師も大勢いたのに目撃証言がひとつもないと言うことに愕然とする。
弟は、いったい誰に、何故、殺されなければならなかったのか?
キーが、独自に動きだすと…。
情景が目に浮かぶようで鮮烈で刺激的だった。
キーとミニーとのやりとりがとても上手くて、心の声が手にとるかのように響いてくる。
ヒリヒリとするような冷たいやりとりのなかにどうしようもない叫びが聞こえてきそうで、もう終わらせてと思いたくなるほどなのに気になる。
オーストリアの移民社会の孤独描く文芸ミステリと帯にあったがその通りだった。
以下、訳者あとがき〜一部抜粋
物語は、1996年のオーストリア、シドニー南西部の街カブラマッタ。
この国最大のベトナム人街があることで知られ、とくにアジアからの移民が多く暮らす地域である。
主人公キーの視点から描かれるいくつかの章と、事件の目撃者やキーの家族といった身近な人物の視点から語られる章を追っていくうちに、薬物がらみの問題を多く抱え、アジア系ギャングによる暴力事件が絶えず起こっている街の不穏さとおなじ街で懸命に生きる人々の活気が入り混じる。
複雑な移民の街が見えてくると同時に、複雑な街の様子を背景に、思春期のころの友達どうし、とくに女の子どうしの関係や、親世代との価値観の違いや衝突、そして親しい人のあいだに生じる嫉妬心や執着や気持ちのずれや絡まりあいといった登場人物たちの心理が、息がつまるほどの切迫感をもって描かれている。