"tamper-proof package"の話で「日本でも1984年のグリコ・森永事件が記憶に新しいが」(p.299)となるくらいの年に(と言っても98年だけど)、当時60歳くらいの企業に勤めるおじさんによって書かれた、英語の本。という、この本にマイナスの部分があるとすれば、上に書いた古さと(ただしその点、著者も「言葉は時とともに移りゆくものである。本書に記載のとおりのこともしかりである。」(p.335)とあとがきで書いているので、それは織り込み済みのこと)著者の属性(男性、初老?)のせいで、合わないと思う人も多いだろうと部分だけで、全体としては面白い内容だった。生活のあらゆる場面の英語(食べ物、注意書き、標識、植物、ことわざ…)の言い回し、表現が解説されている。著者のイラストも挟まって、軽い読み物の割に、知識として得るところの多いものになっている。あとは著者の語り口も、ウィットの効いた(?)おじさん独特の感じなのが、相性が合えば心地よいと思える。(例えば「映画の年齢制限」(pp.58-9)の話とか。R指定の映画は「あからさまな性描写はないが、たまには裸や濡れ場が出てきてドキッとし、隣にいる娘の顔をそっとうかがってしまうもの」(p.59)で、Gは「清く正しい内容。一般向き。自分の娘と見てもヒヤヒヤしないですむもの。他人の娘と見る時はなぜかランクの違うものを見たがる。」(同)という感じ)
というかこれだけ英語と向き合っても知らないことだらけで、まさに「この道は奥が深く、終わりがない」(p.334)。
あとは知らなかったことのメモ。牛肉のランクはprime - choice - good - standard - commercial - utility らしい。下の2つが面白い。sheep's eyes「色目、秋波」(p.32)。秋波?国語辞典を調べてしまう。ちなみに英和辞典も調べると、make [cast] sheep's eyes at ~の形で使うらしい。"Please curb your dog."と言って、絵がなければこの意味が分かるだろうか。「犬の排泄は車道のわきに」(p.114)らしい。排泄自体が許される世の中ではないので、ちょっと前時代的な感じもするけれども。でもそんなマニアックな標識じゃなくても「通行止め」みたいな単純な掲示も、"No thoroughfare" と言うらしい(イギリス英語だろうし)。同じく速度制限のための道路のコブ(凸)は、イギリス英語では"sleeping policeman" (p.72) だそうだ。。こういうのは学校で教えたり教わったりすることじゃないからなあ。同じく商標というのは馴染みがないので知識として知ってないとよく分からないのだけど、ポップコーン "Cracker Jack" (p.199)ってどっかで聞いたことあるなあ。洋楽だったろうか。でも今もそう言うのかどうかは分からない。fire sale「火事の後始末のセール」(p.204)って何?「変な習慣」という意味ではSay it with dead flowers.という、「バレンタインの日に、自分をふった憎き昔の恋人に、墓地からひろってきた枯れた花を黒塗りの箱に入れて紫のリボンをつけて贈る」(p.125)というのがあるらしい。「悪趣味であるが、これを代行する商売がある」(同)というのが驚きだ。「まいったか!」は"Say uncle!"で、"Uncle! Uncle!" (p.209)と言うらしい。ってこれはどっかで聞いたことあるなあ。でもこれもこんなこと今の時代に言う子どもはいるのだろうか。eat crowというイディオムは面白いと思った。「自分の誤りを認める、自分のいやなことをする」(p.256)という意味らしい。辞書によると《米略式》とあった。今はやりの「メルカリ」はMercuryから来ているのか?Mercuryは水星、とばっかり覚えているけど、もちろんもともとは神様の名前で、そして「ローマ神話ではMercury(メルクリウス。神々の使者で商業・雄弁・旅行の守護神)」(p.266)という説明を見て、思った。旅行の神様でもあるんだ。メルカリとか好きじゃなかったけど旅行好きなので、メルクリウス大事にしなきゃ、と思う。「時差通勤する」はstagger the commuting hours(p.281)。警官なんて単語を知らないことがあろうか、と思っていたが、イギリス英語でconstableという「巡査」という単語があるらしい(p.319)。
という、純粋に知識が増えることの楽しみが味わえる本だった。(20/12/19)