一時は「金正日の詩人」と呼ばれるほどに栄華を誇った脱北詩人による詩集。実際に北朝鮮で暮らしていた詩人の叫びは、どんな北朝鮮関係の論文より心を打ち、また北朝鮮の「真実」を描き出しているかもしれない。
帯にも掲載されている、一篇の詩を掲載しておきたい。
その女は 憔悴していた
――わたしの 娘を
...続きを読む100ウォンで 売ります
書かれた 紙を 首に かけ
おさな児を わきに立たせて
市場に 立っていた その女は
女は 唖者であった
売られる 娘と
売る 母性を ながめては
人々の 投げかける 呪詛にも
地べたを みつめるばかりの
その女は
女は 涙も 枯れていた
母が 死病に かかって いると
わめき 泣き叫ぶ 娘が
母のチマに すがっても
女は ただ くちびるを
震わせるばかり
女は 感謝することも
知らなかった
あんたの 娘ではなく
母性愛を 買うと
ひとりの 軍人が
100ウォン 手渡すと
その金を もって どこへやら
駆け出した その女は
女は 母であった
娘を売った 100ウォンで
小麦粉パンを かかえ
慌てて 駆け戻り
別離れ行く 娘の
口へ 押し込み
――赦しておくれ!
慟哭した その女は