▼あらすじ
大学入学を目指し、ある屋敷に下宿することになった進藤明文。自由に使っていいと離れに案内されたがただひとつ、「裏庭の奥の薔薇園に近づかないこと」を約束させられる。
しかし、風に混ざり聞こえる不審な音を追えば薔薇園に辿りつき、誰もいないはずのそこには見目麗しい青年が佇んでいた…。
***
表紙とあらすじに惹かれて購入しました。
番外編が収録されていますが、ほぼ丸々一冊表題作といっていいです。
表題作の時代背景はおそらく大正。と言うのも作中に凌雲閣が出て来るので多分その辺りじゃないかな、と。(凌雲閣が建っていたのが大正末期までの為)
大正を舞台にした作品が大好きな自分としてはまさにうってつけな内容でした。
初読みの作家さんだったのですが、まず最初に思ったのが絵が綺麗だという事。
全体的になめらかで迷いの無い線が特徴的で、手や身体、服の皺などの描き方が自然で個人的には良いな、と思いました。あと、背景や家具などの細かい部分の描写も上手く、特にお話の要となる薔薇園はかなり力を入れている事が伝わって来て好印象でした。
あと、雰囲気も大変良かったです。
薔薇園には近付くなと釘を刺されたその日の内に攻めが薔薇園に入っちゃう展開にはいくら何でも早過ぎだろ!とツッコミを入れたくなりましたが、その後で繰り広げられる白薔薇を背景にした受けとのエロシーンはなかなか蠱惑的で、受け=白薔薇の化身か?と本気で疑ってしまうくらい妖しい雰囲気たっぷりでした。(※受けは普通の人間です笑)
その後、攻めと文通するシーンがあるのですが、ちゃんとその時代の言葉遣いで綴られている為、ここも雰囲気たっぷりです。こういう細かいところの描写に力を入れているのでちゃんと“大正モノ”を読んでいる気分に浸れます。
しかし、読み終わった後に真っ先に思い浮かんだ言葉は「惜しい!」なんですよね…。
雰囲気は抜群。設定も良い。流れも面白い。非常に読ませる内容だったのは確かなんですが、本来なら盛り上がるべき部分でイマイチ盛り上がれず、「あともう一歩!」ってところで終わってしまった印象。
ラストも不完全燃焼なのがいけなかったかな。説明不足な部分もあるし、読者は皆、彼らがその後どうなったのか凄く気になるところだと思います。
上から目線で申し訳ないのですが、せめてこれでパンチが効いていれば、この作品はもっと面白くなっていたに違いありません。
だって素材は良いんですから。こんなサラッと終わらせるのは勿体無いです。
あと、最後に表題作CPの生まれ変わりを匂わせる番外編(現代モノ)が載っていますが、個人的には生まれ変わりとか良いから本人達がその後どうなったのか教えてくれ…って思いましたね。
戦争で離ればなれになってしまったんでしょうか。もしそうなら辛過ぎる…(泣)
番外編でも決して多くは語られておらず、結局は読者のご想像にお任せします、って事なんでしょうが、表題作も説明不足感が否めなかったので、せめて番外編で本編の“その後”を補うようなきちんとした説明が欲しかったですね。
でも雰囲気はかなり楽しめる作品なので、表紙を見て良いなと思ったら読んでみても損はないのではないのでしょうか。特に私のように大正が舞台で耽美ちっくな作品が好きな人にはそこそこ楽しめる作品かもしれません。
ただ、表題作に軽くですが近親相姦要素が入っているので、地雷な人は要注意。