広田弘毅の事は知らなかったが城山三郎の著書だったので拝読。非常に勉強になったし、広田弘毅の生き方にはリスペクト出来た。
東京裁判で絞首刑を宣告された七人のA級戦犯のうち、ただ一人の文官であった元外務官僚、元総理、元外相まで勤めた広田弘毅。
戦争防止に努めながら、その努力に水をさし続けた軍人たちと共に
...続きを読むA級戦犯として裁かれ、それを従容として受け入れた広田弘毅の潔い生涯を激動の昭和史と重ねながら克明にたどる。
福岡の石屋の倅として生まれ余りの優秀さゆえに進学。日清、日露戦争で戦争に買ったが外交で負けた日本を見て外交官を目指した。
どんな時も国際情勢を冷静に分析し誠意をもって外交を行う広田は、軍人に負けない強い信念と、粘り強さと、実行力を持つ数少ない人物として、外務省の役人から外務大臣となり総理大臣へ上り詰めた。
常に平和外交を目指して軍部、右傾の世論と冷静に戦い続けた広田だが最終的には太平洋戦争突入を止められなかった。統帥権独立の名の下に軍部は独走し、同じ軍部でも陸軍、海軍が対立。同じ陸軍内でも参謀本部と陸軍省が対立。関東軍の勝手気儘な独走によって事態は修復不能になってしまう。
史実に忠実に描かれた小説で、近代史を理解するのにこれ以上正しく歴史が描かれた小説は少ないと思う良書である。
太平洋戦争、第二次世界大戦について詳しく知らない人でも、飽きずにテンポよく読めるので歴史を知りたい人にもお勧めです。
丁寧な取材により小説化されているので脚色はほとんど無く外務省同期の佐分利貞男の死因を巡る陰謀についても一部、丁寧に描かれているが故に佐分利貞男の遺族より訴えられている。
この裁判は故人に対する名誉毀損が成立するかどうかと一時期大変話題となった。
個人的には、当時としては珍しかったであろう高級官僚であった広田が恋愛結婚を実らせた妻静子との仲にも真実と誠実さが垣間見れた。
静子は広田が巣鴨に収監されたのち、広田を楽にしてあげられる方法が一つあると言い残して思い出の鵠沼の別宅にて自殺している。享年62歳。
東條英機他の軍人A級戦犯達が、13階段に向かう前に万歳三唱を行った事に対して象徴的な皮肉のような冗談を言っている。万歳、万歳を叫び日の丸の旗を押し立てて行った果てに、何があったのか思い知ったはずなのに、ここに至っても、なお万歳と叫ぶのは、漫才ではないのか?