あらすじ
1936年夏、ヒトラーはベルリン大会の開会を高らかに宣言した。それはナチスが威信を賭けて演出した異形の大会にして、近代オリンピックの原点となった――。著者は、そのすべてをフィルムに焼きつけて記録映画の傑作『オリンピア』を産み落としたレニ・リーフェンシュタールの取材に成功する。さらに、激しく運命が転回した日本人選手の証言によって大会を再構築した傑作ノンフィクション!
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Posted by ブクログ
1936年、大戦前のベルリンオリンピックのドキュメンタリー。記録映画を作ったレニ・リーフェンシュタールへのインタビューに向かうところから始まる。
各種目の詳細な描写、日本人選手の苦悩に満ちた心持ち。この大会では日本は非常に活躍した。私も知っている「暁月の超特急」吉岡隆徳や金メダリスト田島直人たち。一番印象的だったのは前畑ガンバレ!の前畑秀子。異常な期待によるプレッシャーに押し潰されそうになりながら掴んだ金メダル。ちょっとうるっときてしまった。彼らはこの後おこる大戦で戦死したり、寿命ですべて亡くなっている。それほど昔の話なのだ。
しかし、そんな古い記録映画と位置付けられていたレニの撮った「オリンピア」は単なるブロマイドの映画でなく、レニの意志が反映した極上の「ブロマイド」だった。
Posted by ブクログ
東京オリンピック2020の直前ということもあって、それを強く意識した感想を書きます。
ヒトラーのオリンピックとも呼ばれる1936年ベルリンオリンピックについて、当オリンピックの傑作記録映画を作成したレニ・リーフェンシュタールへの取材と、当時の日本人選手の証言をもとに書き出した、読むオリンピック。
レニへの取材にそれほど紙幅を割かれているわけではなく、ナチスによる影響を克明に描いているわけでもない。出場選手についても、誰かに焦点を当てているわけではなく、オムニバス形式である。このため、どこかぼやけた印象があることは否めないが、80年以上前のオリンピックを日本人がどのように迎えたのか、その一端を垣間見ることができる、読み物として非常に面白い本だった。
今は2021年6月19日、東京オリンピック2020が開催されることがなし崩し的に決まりつつあり、観客を入れるのか無観客にするのか、等の議論(?)がなされている。この本の著者は、あとがきにおいて「惨めで哀れな大会」(p.418)とこき下ろしており、あとがきだけ読むとこの著者、悪い奴だなと思わなくもない。不朽の名作『深夜特急』を上梓した作家はこんなに性格の悪い奴だったのかと。
ただ、本作を読むと、そういいたくなる気持ちが分かるような気もしてくるのだ。
1936年ベルリンオリンピックは言うまでもなく、ヒトラーがナチスのプロパガンダを盛り込むことを強く意図して計画されたものだ。WWⅡ最大級の悪役(連合国からみたらムッソリーニや昭和天皇とかも一緒だろうが)によって企図されたもの、ということで悪名高いオリンピックとなっているが、政治的な意図でWWⅠ以降数度に亘りドイツが干されていたこと等、歴史を紐解いてみれば、何もオリンピックと政治との切っても切れぬ関係は1936年に限ったことではない。
そして2021年の東京オリンピックに至っては、政治と経済に振り回されるオリンピックとしての側面がどんどん剥き出しになってしまっている。
「あのベルリン大会はさまざまに評価されるオリンピックだったかもしれないが、参加した自分たちにとっては最高の祭りだった」(p.367)
とは、ヨット競技でベルリン五輪オリンピックに参加した藤村紀雄の回想だ。影があれば光もあったベルリンオリンピック。時の指導者に熱狂していた。その熱狂はWWⅡに突き進む道を辿ることになるが、ベルリンオリンピックが国民の圧倒的支持の中で成功裡に終わったことは疑いようがない。
そのコントラストを鮮やかに描き出した著者だからこそ、国民の支持すらないオリンピックに苦い感情を抱いているのだろう。
選手は、国民は、東京オリンピック2020を「最高の祭りだった」と笑顔で振り返ることができるか。コロナウィルスの動向でもなく、経済的効果でもなく、長い歴史の中でのオリンピックの成否は、そこにかかっているのかなと思った。