【感想・ネタバレ】シェーンベルク音楽論選 ──様式と思想のレビュー

あらすじ

現代音楽の最初の出発点を切り拓いた音楽家シェーンベルク。十二音技法の開発を通して無調音楽への扉をひらき、作曲活動はもちろん『和声学』『対位法入門』などの理論書でも知られる彼が、音楽的信念を熱く綴った論集が本書である。ここでは内から突き上げる創作への力を重視し、作曲技法がマニュアルに堕することを批判する。激動のヨーロッパ史、大衆音楽の興隆、グローバリゼーションと民族性の相克などを含めてクラシック音楽が大きな結節点を通り過ぎていくさまを通し、20世紀芸術が経験した思想的葛藤を目の当たりにすることができる。音楽そして芸術を考えるための必読書。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

いつも言っていることだが、一般論として音楽科は文章が下手で、論理も筋がちゃんと通っていないことが多い。恐らく本を読む習性がないからだろうと考えている。武満徹あたりは素晴らしい文学性をも備えていて、際だった例外である。
さて本書だが、シェーンベルクは思ったよりも文章は下手ではないと思う。すごく上手いわけでもないが、論理が成立していて、真面目に考えて生きてきた人なのだなとわかる。
それに比べて、翻訳が良くない。訳者も作曲家らしいのだが、とても読みにくい訳文だ。文章のセンスがない。たとえば、1ページ内の十以上のセンテンスの文末が全部「・・・である。」になっていることに気づいたときは失笑してしまった。こんな初歩的な文章作法がなってないなんて、高校生以下だ。編集者は何をやっていたのか。
私はストラヴィンスキーの音楽の個性が大好きなのだが、シェーンベルクはストラヴィンスキーをやたら揶揄したり、「おまえの旋律も、リズムも、和声も、何もかもが嫌いだ!!」などと放言する辺り、心の狭いヤツだなあ、と思っていた。この「心の狭さ・固さ」のイメージは本書を読み通してもまったく払拭されなかった。
シェーンベルクは「(音楽の)歴史、歴史」と盛んに言うのだが、この歴史観なるものは、バッハ、ベートーヴェンからヴァーグナーにいたるドイツ近代音楽の狭い一部分のみに限定された一側面というに過ぎず、まったくもって主観なのだ。そうした「偏り」を普遍だと信じていたところにシェーンベルクの知性の限界がある。
彼が音楽的に重要だと思っているようなのは、楽譜上の諸音楽素の構成法であるようで、たとえばドビュッシーの「響き」の革命については、音楽の中心的要素ではない、と切り捨ててしまっている。後代の音楽家・聴衆は全然そうは考えなかったのだから、シェーンベルクが「信じたもの」はたちまちにして古びてしまった、前時代の遺物でしかなかった。
そして、十二音技法という、数学的構築にもつながるような書法を編み出しておきながら、自身は近代的な芸術家スノビズムに留まった保守主義者であった。後代の作曲家たちは、むしろウェーベルンに触発される流れが多かったようだ。
そうは言っても、シェーンベルクは非常に優れた作曲家の一人であり、もちろん聴いておくべき・欠かせない20世紀音楽のメルクマールである。
本書の中では自作をなぞりつつ十二音技法について書いた文章もあり、これはかなり貴重と言わなければならない。私も十二音技法を学ぶときに、この文章に出会っていたら良かったのになあ、と思った。
言うまでもなく、日本の若い音楽家は必読の書物である。

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2019年10月12日

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