【感想・ネタバレ】死刑賛成弁護士のレビュー

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Posted by ブクログ

ネタバレ

「葬儀屋さんから「美咲ちゃんはお父さんがどうぞ」と言われ、私が抱きかかえて棺に入れました。・・・父親として抱っこしてあげられるのはこれが最後だと思うと、棺におろしたくない! このまま時間が止まってくれたら! という気持ちでした。・・・美咲を抱えたまま、私は泣きました。」

「(死体安置所で対面した)娘は、顔に何か所も青あざが広がっておりパンパンにむくんでいました。眉間や左頬、顎には傷があり、バリバリに固まった髪の毛は大量の出血を連想させました。・・・そんな娘の顔を見て、強く抱きしめると痛いのではないかと思い、そっとなでてあげることしかできませんでした。」

 これは、凶悪犯罪により愛する家族を失った遺族たちが綴った手記の一節で、本書からの引用です。これらのシーンを想像すると、こみあげてくるものがあります。
 ではこれらの人々を殺めた犯人はと言うと、裁判で「ドラえもんがいると思った」 「(死姦した理由を)死者を生き返らせる儀式だった」と証言したり、刑確定後に「悪いことはばれなきゃいいという気持ちは変わらない」と発言するような人間たちです。
 そして彼らは検察側の死刑の求刑に対し、無期懲役判決を「勝ち取り」ました。

 死刑とは、残虐な手口で人を殺め、更生の見込みもなければ生きる価値もない人間のクズに対してくだされる「この世からの退場命令」です。
 ただ、世間の常識からすると360度見まわしても人間のクズとしか思えない犯罪者であっても死刑判決が下されるのは極めて稀です。
(統計的には殺人事件300件に対して死刑は2件あるかどうか、という数です。)

 本書では死刑制度に賛成の立場をとる弁護士たちが、制度存在の必要性や妥当性を様々な観点から説明し、加えて死刑判断の基準をもっと緩和すべきとさえ説きます。
 前半部分は実質的な死刑の判断基準である「永山基準」や、これに盲目的に従う(事なかれ主義的な)裁判官に対する問題指摘、また死刑反対論者たちが提示する主だった理屈への論駁が展開されます。
 後半では、結果的に死刑を回避できた犯罪者たちがいかなる所業を犯したのかの詳細と、これら人間のクズたちによって家族を奪われた遺族たちの悲痛な訴えが、手記の形で紹介されます。
 つまり左脳と右脳の両面から死刑制度存置の妥当性と、基準緩和の必要性が訴えかけられる構成です。

 考えてみると弁護士が「死刑賛成」の立場とその理由を闡明すること自体が異例ではないでしょうか。弁護士というと人権擁護のために遮二無二活動する印象がありますから。
 読んでみると

 「生きて償わせる」というのは耳ざわりのいい言葉です。

 被告人は・・・「家族のために更生することを誓います」と ”しおらしく” 宣言します。
 その時は本当にそう思っているのでしょう。おいしいご飯を食べたいでしょうし、自由に友達とも会いたいでしょうから。

 弁護士は内心「またやるだろうな」と思っています。

 などなど、「本当に弁護士なのか!?」とびっくりするほど率直なコメントがてんこ盛りで、ある意味痛快です。
 しかし本書の執筆に携わった弁護士たちは、本書でも紹介されるような凶悪犯罪をつまびらかにしたり、実際に遺族たちと交流することを通して「命は大事、だから死刑」の結論に至ったのでした。そこに生半可な覚悟はありません。

 一方で死刑反対論者たちの理屈にはきれいごとが並びます。本書ではそのことごとくが論駁されているのですが、彼らの理屈からは「自分は目の前の連中よりも高尚なことを語っている」といった自己満足や増上慢な態度が透けて見えます。
 面白いのは 「死刑に対する宗教界の見解は?」の項です。
 仏教界は死刑に対して明確なスタンスを提示しているわけではありませんが、「不殺生の教えと矛盾する」という見解のみは出しているようです。
 そこで本書の執筆弁護士の一人は町中のお坊さんに質問して回ります。

「もし殺人事件の被害者の葬式を挙げているときに、被害者遺族が、被告人には死刑になってもらいたいと思っていると言われたらどう答えますか?『死刑はダメですよ、被告人に死刑を望んではいけない』と面と向かって説教できますか?」

「もし貴方の愛するご家族が殺人で殺された場合、貴方はどう思いますか。殺したいと思わないですか?」
 
 するとお坊さんらは一様に押し黙り、これらにはっきりと答えられないそうです。つまりいくら日頃高尚な話を説いている人間であっても、当事者の立場に降ってくれば、生身の人間として率直に感覚せざるを得ないということでしょう。

 本書では「きれいごと」ではすまされない犯罪被害の生々しい実態に触れており、いろいろと考えさせられます。
 また死刑を巡る論点や法制度の沿革などにも触れられており、非常に参考になります。
 そして被害者遺族たちの言葉は心に刺さります。

 死刑制度について興味のある方は是非読んでほしい一冊です。 

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2020年09月12日

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