【感想・ネタバレ】美しい電子顕微鏡写真と構造図で見るウイルス図鑑101のレビュー

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Posted by ブクログ 2020年10月01日

今大きく世間を揺るがせているコロナウイルス。毎年冬に流行するインフルエンザウイルス。赤ちゃんのおなか風邪の原因で、今月から定期ワクチン接種の対象となったロタウイルス。
何かと話題のウイルスだが、さてどんな存在なのかというと意外に知られていないのではないか。
本書は、ヒトだけでなく、脊椎動物、植物、昆...続きを読む虫などの無脊椎動物、菌類・原生動物、細菌・古細菌が感染するウイルス101種を電子顕微鏡写真とともに紹介する図鑑である。
特徴的なのは、疾患を引き起こすウイルスだけでなく、幅広い種類のものを取り上げていること。病原性がないものもあれば、宿主にとってなくてはならぬ存在となったものもある。バイオテクノロジーの発展に大きく寄与したものもある。

ウイルスとは何か。
実はその定義は一筋縄ではいかない。一般的には、非常に微小で、外被に覆われ、複製のために宿主の機構を借りるものを指す。が、中には、外被を持たないものや、また巨大ウイルスのように、かなりの大きさを持ち、自身の遺伝子を翻訳できるものもある。ウイルスに関して新たな発見があるたび、ウイルスの定義も更新されうるのだ。
本書では
細胞とは異なる感染体であり、核酸分子(DNAまたはRNA)の形をした遺伝物質で成り立ち、たいていはタンパク質の外被に覆われ、侵入した宿主細胞内の機構を勝手に使って自己を複製し、拡散するもの
としている。

冒頭のイントロダクションでは、ウイルスに関する基礎知識が簡潔にまとめられている。
ウイルス学史、遺伝物質の種類や生活環によるウイルスの分類、感染経路や免疫系などの関わりで、一通り、ウイルスの概要が掴める形である。

ウイルスの大きさは数十ナノメートル(nm)から数百nmのものが多い。この範囲だと光学顕微鏡で観察するのは難しく、電子顕微鏡を使うことになる。元々の電子顕微鏡写真は白黒だが、本書ではわかりやすく彩色されている。
こうして見えてくるウイルスの形は、紐状、球状、紡錘形、弾丸状とさまざまである。中には、細菌のウイルスのように、月着陸機のようなものもある。
その多様性は図鑑として眺めるだけでも楽しめる。
電子顕微鏡写真に加え、各ウイルスのゲノム形状や分布地域、宿主といった基本情報、構造の模式図も付される。

ヒトのウイルスに関しては、エボラやデング熱、エイズ、ポリオ、ジカ熱といった疾患の原因ウイルスが大部分である(刊行が2018年であるので、新型コロナウイルス=COVID-19は含まれない)。
1つだけ、病気をもたらさないヒトウイルスも取り上げられているが、実はこうした無害な(場合によっては有益な)ウイルスはほかにも多くあるはずだ。
近年、宿主にとって有益なウイルスが発見されたことから、非病原性ウイルスへの関心が高まってきており、将来的には細菌のマイクロバイオームのように、常在ウイルス集団(ビローム)の重要性が見えてくるのかもしれない。

ヒト以外のウイルスの話も興味深い。
近年、カエルツボカビ病(こちらは菌類が病原体)によるカエルの激減が心配されているが、ウイルスにもカエルに病気を引き起こすものがあり、ラナウイルスと呼ばれる。カエルやほかの両生類にかなりの打撃を与えており、今後が心配されている。
このラナウイルスはイリドウイルスと呼ばれるウイルスの仲間で、精製すると青みがかった虹色を発する(イリドは虹彩の意)。色素ではなく構造色によるものだが、なぜウイルスが色を持つことになったのか、詳しい理由は不明のようである。

それぞれ別の種だが、養殖のサケやエビに感染するウイルスというのもある。
養殖場では同一種が数多く密集するため、病気が拡大しやすい環境となる。
ある意味、現代ならではの病気で、今後もこうした養殖場での発生が懸念される。

宿主になくてはならないウイルスの例として、寄生バチとコマユバチブラコウイルスの例が挙げられる。
寄生バチは生きているイモムシに卵を産み付け、いわばイモムシを孵化器として利用する。この際に、イモムシの免疫系に攻撃されないようにするのがウイルスの役目だ。ウイルスはハチの卵と一緒にイモムシの体内に送り込まれる。ウイルスの内部にはハチの遺伝子が含まれており、これがイモムシの体内に放出されて、イモムシの免疫系を抑制するタンパク質を産生する。つまりハチの卵が免疫系の攻撃をかわせるようにするのだ。これがないとハチの卵は死んでしまう。
このウイルスが最初にハチに感染したのは1億年前だと考えられており、ウイルスの遺伝子はハチゲノムに組み込まれ、一方、ハチ遺伝子がウイルス粒子内に入る形になっている。こうなると、いったいウイルスは独立した存在なのか、それともハチの一部なのか、見解はわかれるようである。

図鑑として見るだけでも十分楽しい。
読み込むとさらに楽しい。
ウイルス入門としては好適な1冊。

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Posted by ブクログ 2018年10月28日

知りたい情報が適度に掲載されている。少し難しい用語や表現もあるが、医学用語辞典を併せて読めばスムーズ。専門外でも十分に楽しめるウィルスの世界が望める。

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